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十三
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「勝手なこと言うな!」
じたばたと抗う敬の動きを、いともたやすく封じこみ、念を押すように瀬津が問う。
「どうだ? その覚悟があるか? あるなら、連れていってやる」
嶋は一瞬、迷うような表情を浮かべたが、次には、唇を噛みしめ、忍従を見せた。
「覚悟します。坊ちゃんの側にいられるなら……」
「ほう」
魔物めいた笑みを浮かべ、瀬津が罠にはまった小獣を見るような目で嶋を見、顎をしゃくった。
「なら、ついてこい。乗れ」
瀬津を待っていた運転手が黒塗りの高級車のドアをあけ、敬を抱えこんだ瀬津が後部座席に乗り、すぐに陸奥が乗りこみ、おずおずと嶋は前座席に乗る。運転手を含めて五人を乗せた車は走り出した。
「放せよ! 放せって!」
この期におよんでも敬は自分の状況を受け入れられず、必死に騒ぎ、あえいだ。
「こら、いい加減聞き分けろ」
手に入れた獲物の活きの良さに満足するように笑い、瀬津はいっそう強い力で敬を抱きすくめてくる。
「畜生……!」
敬は遠ざかっていく安賀邸を見つめ、不覚にも涙を浮かべそうになった。そんな自分自身と戦うように歯を食いしばる。
その日が、敬が勇と過ごした安賀邸を見た最後だった。
じたばたと抗う敬の動きを、いともたやすく封じこみ、念を押すように瀬津が問う。
「どうだ? その覚悟があるか? あるなら、連れていってやる」
嶋は一瞬、迷うような表情を浮かべたが、次には、唇を噛みしめ、忍従を見せた。
「覚悟します。坊ちゃんの側にいられるなら……」
「ほう」
魔物めいた笑みを浮かべ、瀬津が罠にはまった小獣を見るような目で嶋を見、顎をしゃくった。
「なら、ついてこい。乗れ」
瀬津を待っていた運転手が黒塗りの高級車のドアをあけ、敬を抱えこんだ瀬津が後部座席に乗り、すぐに陸奥が乗りこみ、おずおずと嶋は前座席に乗る。運転手を含めて五人を乗せた車は走り出した。
「放せよ! 放せって!」
この期におよんでも敬は自分の状況を受け入れられず、必死に騒ぎ、あえいだ。
「こら、いい加減聞き分けろ」
手に入れた獲物の活きの良さに満足するように笑い、瀬津はいっそう強い力で敬を抱きすくめてくる。
「畜生……!」
敬は遠ざかっていく安賀邸を見つめ、不覚にも涙を浮かべそうになった。そんな自分自身と戦うように歯を食いしばる。
その日が、敬が勇と過ごした安賀邸を見た最後だった。
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