燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「あん……違うわ、嫌よ」
 タルペイアの声が聞こえたらしく、濡れたような声でサラミスが抗議する。
「どこが違うというのよ、この淫乱、」
 タルペイアが笑いながら、二本の指でサラミスの薄紅色の胸の先端をつまみあげる。
「やっ!」
「それは、おまえには物足りないでしょう?」
 なんといっても、かなりきわどい行為を、不安定な状況でするので、あまり大きな道具は使わないのだと、タルペイアはウリュクセスに説明した。
「それに、私は大きければ良いという考えには反対ですの」
 男根信仰がまかりとおっているローマで、しかも娼婦でありながらこういう発言をするタルペイアを、ウリュクセスは青白い目でおもしろそうに見つめている。
「なるほど。それは一理あるね」
「女を、いえ、男娼をも喜ばすのは、道具の大きさではなくて……愛の技術ですわ」
「ああ……!」
 タルペイアの蝋細工のような手が、サラミスの剝きだしの乳房を舞台として、ゆっくりと踊る。
「うう、うう……」
 サラミスは頬を上気させ、全身でのけぞり、なにかに耐えるように眉を寄せ、自分をささえる二人の宦官の胸板を、手で必死に押す。だが、彼らはゆらぐことなく、サラミスの力を受けとめている。二人ながら、まるでサラミスという生まれながらの娼婦にして永遠の少女のような女性のすべてを受け入れることを示すように、何も言わず、抗わず、ただサラミスの渾身の力をこめた手を受けとめている。
「ううっ! あっ、ああん……!」
 青銅のあぶみに着けているサラミスの白い両足が、力を入れたように引きつり、彼女は苦しげに喘いだ。
「はっ、ああっ、あああっ」
 青銅の馬は、とうぜん何も云わない。
 冷たい無機質の置物の上で、サラミスは一人で悶え、喘ぎ、悦楽の涙をながし、濃密な桃色の吐息をはく。そこには生身の男たちを相手にしたときのように、抱きつく胸も、抱き返してくれる腕もない。ただ物言わぬ馬の彫像にまたがったまま、サラミスは死にものぐるいの様相を見せ、リィウスをいたたまれなくさせた。
 黄金の髪が白い背でゆれ、玻璃はりの玉のような汗が豊満な胸のはざまにしたたる。
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