燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 エリニュスが象牙の道具を手に、いっそ雄々しいと呼べるような足取りでトュラクスに近づく。
「あ、よせ! 来るな!」
 さすがにトュラクスは狼狽をかくせないでいる。
「今更、なにを言っているのよ。ここを、……こんなふうに……しておきながら。ほほほほ」
 隠すもののない股間の熱を帯びた塊りをにぎられ、トュラクスは苦悶に身体をひねった。
 トュラクスは、どれほど辛い戦いでも、闘技場では決して見せなかった困惑と苦痛の入りまじった顔になった。
 彼が男らしい顔をゆがめ、額にも、首筋にも、玻璃のような汗の玉をはじけさせて、辛そうに首を振っている姿から、濃密な男の色気が匂いたってくる。
 こんな男のなかの男のような男の内にひそむ色気とは、見る者になにを思わせるのか。女は抱かれたいと願い、男は屈服させたいと望むのか。トュラクスには、リィウスとはまったくおもむきのちがった艶と色がある。
 カニディアは、男色趣味があるのか、黒い目に欲望をちらつかせ、名残惜しそうにトュラクスの剝きだしの臀部を撫でまわす。
「さ、触るな! 下種!」
「おやおや、せっかく気持ち良くなれるようにしてやったのに、あんまりだな」
「ふふふふ。あとは私にまかせなさい。二度と生意気な口が聞けないようにしてやるわ」
「そっと、そっと、ですよ、エリニュス。乱暴にしてはいけません」
「何言っているのよ。下手に優しくしてやったら、つけ上がらせるだけよ」
 カニディアが笑いながら首を振る。
「わかっていませんね、エリニュス。こういう男は痛めつけるよりも、悦ばせてやる方がいい躾になるのですよ。痛めつけたところで、彼にはあまり効果がありませんよ」
 なるほどね……。エリニュスが呟いた。
「そうね、トュラクス、今日はうんと良くしてあげるわ。おまえが女のように素直で可愛くなれるようにね」
 不気味な笑みを浮かべ、エリニュスが象牙の柄を握りしめる。
「ほうら、じっとしているのよ」
「うう! よ、よせ! やめろ! 淫婦! 売女!」
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