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五
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「ナルキッソス様、どうしたのですか? 落ち着いてください」
さすがにあわてたアンキセウスが、少年の細い肩をおさえこむようにして抱きすくめた。
(おや……)
アンキセウスは眉をかすかにしかめていた。また、妙な違和感が背に走る。
(なんだろう?)
ナルキッソスの肩をもう一度おさえこみ、違和感の正体を探ろうとしてみた。
アンキセウスが戸惑っていると、あたりにさざ波が立つような気配がした。
「おまえ……ナルキッソスなの? リィウスの弟だというのは、おまえなの?」
声の主を振り向いてみると、そこには、顔をベールで覆った女がいた。だが、顔半分を薄布で隠してはいても、美しいと人に思わせる女である。
「おまえ……どうして?」
女の瑠璃色の瞳がふしぎなものを見るように張りつめている。動揺しているようだ。
腕におさえこんだナルキッソスと、突然声をかけてきた女性を見比べ、アンキセウスも動揺した。ナルキッソスがひどく興奮しているのが伝わってくる。
「あはははははは! はははは! びっくりしているのは僕の方だよ。おまえこそ、ここで何をしているんだよ、マルキア?」
女の名前はマルキアというらしい。だが、その名がナルキッソスの唇からもれた瞬間、女の目つきが険しくなった。
「金持ちの後妻におさまって、悠々自適の日々をおくっているんじゃなかったのかい? それなのに、ここでまた昔の商売に手を出しているのか? また売春婦に戻ったというわけかい?」
二人が知り合いだったことに気づいたアンキセウスは、ややたじろいだ。ナルキッソスの交友関係は熟知しているつもりだったが、これまでにマルキアという名はあまり聞いたことがない。
ひどく毒を込めて投げつけられたナルキッソスの言葉に、当のマルキアは冷然と返した。
「そういうおまえは、ここで何をしているの? おまえこそまた男娼稼業に戻ったというわけ?」
「まあね」
悪びれもせずナルキッソスは答える。その目も、顔も、敵意と挑戦に燃えている。この二人の関係はどういうものなのだろう。まちがっても良好とはいえない。
さすがにあわてたアンキセウスが、少年の細い肩をおさえこむようにして抱きすくめた。
(おや……)
アンキセウスは眉をかすかにしかめていた。また、妙な違和感が背に走る。
(なんだろう?)
ナルキッソスの肩をもう一度おさえこみ、違和感の正体を探ろうとしてみた。
アンキセウスが戸惑っていると、あたりにさざ波が立つような気配がした。
「おまえ……ナルキッソスなの? リィウスの弟だというのは、おまえなの?」
声の主を振り向いてみると、そこには、顔をベールで覆った女がいた。だが、顔半分を薄布で隠してはいても、美しいと人に思わせる女である。
「おまえ……どうして?」
女の瑠璃色の瞳がふしぎなものを見るように張りつめている。動揺しているようだ。
腕におさえこんだナルキッソスと、突然声をかけてきた女性を見比べ、アンキセウスも動揺した。ナルキッソスがひどく興奮しているのが伝わってくる。
「あはははははは! はははは! びっくりしているのは僕の方だよ。おまえこそ、ここで何をしているんだよ、マルキア?」
女の名前はマルキアというらしい。だが、その名がナルキッソスの唇からもれた瞬間、女の目つきが険しくなった。
「金持ちの後妻におさまって、悠々自適の日々をおくっているんじゃなかったのかい? それなのに、ここでまた昔の商売に手を出しているのか? また売春婦に戻ったというわけかい?」
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ひどく毒を込めて投げつけられたナルキッソスの言葉に、当のマルキアは冷然と返した。
「そういうおまえは、ここで何をしているの? おまえこそまた男娼稼業に戻ったというわけ?」
「まあね」
悪びれもせずナルキッソスは答える。その目も、顔も、敵意と挑戦に燃えている。この二人の関係はどういうものなのだろう。まちがっても良好とはいえない。
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