昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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雨夜の帰還 一

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 夕刻から小雨が降りだし、やがて雨音は激しくなった。
「今日は、叔父さまたちは来られないかな?」
 自分の声がいまいましいほどにか弱く響くのが望はなさけない。だが、待ち人が来ない寂しさはなんともしようがないのだ。
「この雨ですからね。もしかしたら、駅近くの旅館にでも泊まられたのかもしれません。明日には来られるでしょうよ」
 食卓の向かいで都がとりなすように言った。
 この屋敷は、もとは先代、つまり祖父の父が建てたもので、日本建築の建物に、西洋様式を取り入れた、当時入ってきたばかりの和洋折衷の造りとなっている。
 外には欧米風の煉瓦の壁をめぐらし、建物全体は旧来の伝統建築であるが、一階の西には、西洋風の広間や食堂がつくられており、どこか童話めいた建物にも見える。
 金にあかせて欧州から輸入したという食卓や椅子で望たちは食事を取ることになっていた。
 祖父が元気なころは、東側の座敷で夕食だけはともにしていたが、今は祖父はほとんど奥座敷で過ごすので、望はこの屋敷に滞在中はつねに食堂で食事を取ることになっている。
 楕円の食卓には、家庭教師の香寺も着いており、望の席からはちょうど都と香寺の顔が見えるようになっている。本当なら、今日来るはずの勇叔父と仁の食事も並ぶはずだが、二人のすがたはまだ見えない。
 食事はご飯と味噌汁、香の物のならぶ和食だが、この地で取れた筍の料理や、勇の好きな牛肉の煮ものもある。牛の肉は、田舎ではそうそう食べられるものではない。
 食卓のまんなかには、町の花屋から仕入れた薄紅の薔薇の花が、青磁の瓶に生けられている。西洋風にも和風にも見えて、ある意味でこの屋敷にふさわしい。
 壁に飾られた大時計はすでに八時を示していた。その時計は、祖父が欧州へ旅したときに買い求めたものだ。
「香寺さん、お腹がおすきでしょう。どうぞ、はじめてください」
 なかなか箸をつけようとしない望にこれ以上はつきあえなくなったのか、都が香寺に声をかけた。香寺の秀才ぶりに一目置いている都は、書生の彼に丁寧な言葉づかいをする。相馬家では都の方がずっと古株で立場も上なのだが、香寺には気をつかっているのだ。
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