昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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雨夜の帰還 二

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「……望君が食べないのなら、私も食べれないですよ」
 香寺が困ったように笑う。
「いただきます」
 望がしかたなしに箸を手に取った、まさにそのとき、食堂の扉が開かれた。
 おずおずと入ってきたのは下女の文である。
「あの、」
「このお屋敷では、入る前にノックを……、扉を叩くようにと言っているでしょう?」
 都に睨まれた文は蛇を前にした蛙のようにちぢこまる。
「す、すいません。あの……玄関に、お客様が。勇さまとおっしゃる方と……」
「叔父さまだ!」
 礼儀も忘れて望は食事の席をはなれて、飛び出した。
 食堂を出、廊下を小走りにいくと、玄関に出る。
 玄関には、なつかしい勇叔父がいた。その背後には運転手が、雨に濡れたらしい勇の背広を手拭でふいている。
 さらに勇の隣に立っているのは……まぎれもない、仁だった。
「叔父さま、仁さん、来てくださったんですね!」
 大好きな二人を前にして、望はまさに飛び上がらんばかりに歓喜していた。
 もう一人の下女も手拭で仁の肩を拭こうとしていたが、彼女は突進してくる望に驚いて、あわてふためいた。
「おい、おい」
 勇が苦笑しつつも、望の派手な歓待を受けとめてくれた。飛びついてくる望を鷹揚に抱きかえす。
「望、しばらく見ない間に背が伸びたな」
「そうですか? でも学院では真ん中ぐらいです。勇叔父さまみたいに背が高くなるといいのだけれど。仁さんも、ようこそ」
 少年の情熱のままに勇に抱きついた望だが、仁を前にすると含羞がんしゅうをおぼえてしまう。はにかみながら、仁の差し出した手を握りかえす。外国生活も長い仁は西洋の習慣になじんでいるのだ。
 仁の軍人とは思えないほどにほっそりとした手を握った瞬間、望は思わず、欧州の騎士のように、その手にうやうやしく接吻したくなった。勇の黒い背広とは対照的に、仁は白い背広姿で、いっそうたおやかな印象をあたえるのだ。
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