昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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牡丹の闇 八

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 怒りと恨みに燃えた勇の横顔を、行灯がにぶく照らす。
「くそ……! 俺を裏切ったこの身体……。いっそ殺してこの世から消してしまいたい……!」
 仁の顎をつかみ、強引に顔を引き寄せる。
(あ……)
 憎悪と、それを上まわる執着と愛着を見せつけ、勇は仁の花びらのような唇を吸った。
(本当に……あんなことをするのだ……)
 望はどぎまぎしながら、息を殺して見ていた。
 大人の男女が好きあうと唇を吸うことがあるとは知っていたが、見たのは初めてだ。
 友人のなかには下女の唇を吸ったと自慢げに言う者もいたが、羨ましいとは思わなかった。すでに娼家へ足をはこんだことがあるという不良学生もいるが、それも聞いて仲間同士わきたちはしたが、あこがれるような話でもない。
 どちらも情欲と好奇心ゆえの行為で、そこには望が夢見るようなものはなかった。
 だが、今、薄闇のなかで口を吸い合う美青年ふたりの姿は、異常なほどの興奮と胸ぐるおしさと、たまらない切なさを望にもたらすのだ。
 合わさった二つの唇は、なかなか離れようとせず、幾度となくからみあい、ついばみあい、互いの魂を吸いあうようにぶつかりつづける。
 勇に無理強いされてとはいうものの、仁はそそぎこまれる情熱と欲望に染めあげられ、ほんのりと肌の色を変えていく。
 全身が薄紅色に染まり、大輪の花が開花するように、男にしてはしなやかそうな身体がくずれ、ほころんでいく様子が知れる。
「ああ……」
 やるせなさそうに身体をひねって、男の唇から逃れようとしながらも、力ずくでおさえこまれると逃げようもなく、仁の身体は蕩けていく。
 すでに、仁が純潔を失った身体であることを望は本能で知った。
 女のように膝を折って座って、白い膝や脚をくずしている姿態が、異様ななまめかしさを放って、望に知らせてくる。
 仁は性の歓喜をすでに知っているのだ。
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