昭和幻想鬼譚

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
36 / 190

日影の若葉 四

しおりを挟む
 少女のように白く柔かそうに見える下半身だが、中心には、薄い繊毛がある。
「へー。お人形みたいな顔をしているくせに。ちゃんとここは毛がついているんだな」
 ややきつめに指で引っ張ってやる。
「あっ、やっ……」
 可哀想に、章一は白い頬を真っ赤に染めて、艶のある黒い瞳から涙をこぼす。
「望ちゃん、変だよ。なんで、こんなことするのさ?」
 黒曜石のような美しい瞳を恨みに濡らして問う章一は、通俗小説に出てくるお嬢様かお姫様のようだ。
 そんな哀れな章一を見ていると、望はやたらと苛々して、いてもたってもいられなくなってきた。
 とことん苛めてやりたい、泣かしてやりたい、という悪魔めいた欲望がわきおこってきて、止まらなくなるのだ。
「なぁ、正直に言えよ。ここを、誰かにさわらせたことあるのか?」
「……」
 この無言は肯定だ。望はさらにきつく引っ張る。
「あ、いた! や、やめてよぉ」
 本当にいじめがいのある奴だと残酷に思いながら、さらに問い詰めると、章一は頬を赤く染めながら、意外な名を告げた。
「藤村? 俺と同級の?」
 藤村は望の級友のひとりで、たしかに章一に付け文したことがあると聞いた。そのときはなんとも思っていなかったが、こうして章一の口から聞くと、やたら不快に感じてしまう。
「おまえ、あいつの稚児なのか?」
 自分が気づかないうちに、二人が深い関係を結んでいたのかと思うと腹立たしい。
 章一は首を横に振った。
「ち、ちがうよ……。でも、……言うとおりにしないと藤村さんが怒るから……。そ、それに、剣道部の人たちに、挨拶の仕方が悪いとからまれていたとき、助けてくれたこともあって……。断れなくて」
 その剣道部の人というのは、まちがいなく藤村の手先、子分だ。望は直感した。
 藤村自身も剣道部の主要部員であり、学院にも顔も広い。おそらく子分にわざと章一をいじめるような真似をさせて、そこへ自分は助け舟としてあらわれたのだ。安っぽい演出だ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

時代小説の愉しみ

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:2

オレはスキル【殺虫スプレー】で虫系モンスターを相手に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,281pt お気に入り:618

ダブルファザーズ

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:50

美咲日記 まとめ版

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:1

処理中です...