昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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日影の若葉 十

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「はぁぁぁっ……!」
 今、章一は今まで生きてきた世界の崩壊を経験しているのだ。望もまたそうだった。
 自分でも、こんなことができるのが不思議だ。
 祖父が自分のものを咥えたとき、おぞましさに気を失いそうだった。内心で、よくもこんなことができるものだと軽蔑していた。それほど憎んでいた行為を、今自分はいとこにしているのだ。
「ああっ、あんっ、望ちゃん、駄目、駄目ぇ!」
 声が大きくなってきたのに慌てた。
 いったん離れると、望は章一の口に、とっさに手に触れたものを押し込んでやる。
 章一は一瞬目を見張ったが、口に詰められたものが自分の下穿きだと気づいたのか、悔しそうな目をした。怒りすら帯びた瞳だが、次の瞬間には悲しそうに潤んで、望を睨むことを止めた。
「ほら」
 臀部をはたき、先ほどと同じ姿勢を要求すると、章一はふるえながらも、四つん這いになる。
「もっと尻上げろよ」
 数秒のとまどいのあと、章一の白い尻が心持ち上げられる。傍目には、望に向かって自ら尻を突き出しているように見えるだろう。
(こいつだって、望んでいる。待っているんだ)
 もともと気弱で優柔不断なところがある章一だが、今のように望に欲望をぶつけられても、本気で逆らおうとしていないところが、どことなく伝わってくる。
 口では嫌だと言いながらも、死に物狂いで望を拒絶しようとはしない。
 望の目の前にあるのは、少年の、一見無垢な身体だが、どこか媚態を感じないこともない。
 それは芸者や、街のカフェの前で一服している女給たちにも見られるものだ。
 少年らしい純情そうな顔と身体の下に、思いもよらず淫蕩なものを感じて、望はいっそう気が昂ぶってきた。
 おとなしくなったので、声を荒げるなよ、と釘をさしてから口を自由にしてやる。やはり章一の声を楽しみたいのだ。
「もう一度、最初からだな」
「あっ、やぁっ!」
 蕾を舐めなおす。
 ぴちゃり、ぴちゃり、と聞こえるか聞こえないかの水音が室に響く。
「はぁっ……! ううっ、くぅっ……」
 苦しく切なそうな喘ぎがつづき、やがて恍惚となった声を章一はほとぼしらせた。
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