昭和幻想鬼譚

文月 沙織

文字の大きさ
53 / 190

遥かな闇から 七

しおりを挟む
 若い女中は首をかしげた。
「旦那様のお知り合いの方とか。勇様もあとから来られるようです」
「仁さんじゃないのか?」
 一瞬、望は来客は仁たちなのかと胸を騒がせた。
「いえ……、仁様ではございません……。あの、雨沼様とおっしゃる方です」
 聞いたことがある。有名な実業家だ。仕事がらみの話でもあるのだろうか。
「ふうん」
 そのあとはさして興味もわかず、言われたとおりに母と食堂で夕食をとったが、父のみならず、いつも一緒に食事をとる香寺の姿も見えなかった。
「先生は?」
 香寺が食事の席にいないのが気になり都に問うと、都は小声で告げた。
「旦那様とご一緒ですよ」
 目を合わせずそれだけ伝えた都に、望は違和感をおぼえた。
 なにか様子がおかしい。
 父の知人と、どういうわけで香寺が一緒に食事をとるのか不思議でもある。
 望はなぜか落ち着かなくなり、食事を終えると「宿題がありますから」と言ってすぐ食堂を出た。

 足は自然としずかになり、長い廊下を忍び足で歩き、父が客人をむかえている和室へと向かっていた。
 障子の向こうで、かすかに物音が聞こえる。
 給仕の女中がいる気配もない。仕事の話をするのだろうか。だが香寺がなぜそこにいるのか、気になって仕方ない。どうも不穏なものを感じる。
「では、香寺、君は納得しているのだね」
「はい……」
 望は廊下から、必死に耳を澄ました。こんなことをしているのが知れたら大目玉をくらうだろうが、どうしてもせずにいられない。
 障子には、三人の男の影が浮かびあがっている。父と雨沼と香寺。香寺の影が、文字どおり薄く見える。勇はまだ来ていないようだ。
「どうしても……お金がいるのです……」
「うむ。君の実家は今いろいろ大変そうだからね。……どうですか、雨沼さん? 雨沼さんのご意見は?」
「不満はないね。香寺君のことは、前から気に入っておったんだ。ぜひ、今夜にも……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

身体検査その後

RIKUTO
BL
「身体検査」のその後、結果が公開された。彼はどう感じたのか?

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...