昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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夏前の夜 四

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「あまり雨沼さんの機嫌をそこねると、困ったことになるのはあんただぞ、先生」
「い、勇さん、あ、あなたという人は……、そ、それでも帝国軍人なのですか?」
 叫ぶような声は、勇の耳にはとどいても、その心を動かすことはまったくないようだ。
「約束は守るものでしょう? さぁ、ここはおとなしくして、雨沼さんの言うとおりにした方がいい。どうしますか? まずは服を脱がしましょうか? それとも先生、あんたが自分で脱ぐかい?」
 勇の口調は柄の悪いものとなってきている。
「どちらがいいですか?」
 問いは雨沼に向けられたものだろう。
「やっぱり、香寺君が自分で脱ぐのを見たいものだな。力ずくで引ん剝くのもおもしろそうだが、こういう気位たかそうな坊やには、自分で脱いでもらう方が楽しめそうだ」
 聞いている望の方が発火しそうだった。怒りではなく興奮に。
「だそうだ。先生、男らしく脱いでもらおうか?」
 香寺の苦しそうな嗚咽が聞こえた。だが、次に響いてきたのは勇の満足そうな声だった。
「そうそう。そうやって、素直に言うことを聞くのが一番だ。やっぱり、あんたは賢いよ」
「あ、あなたのことを見損ないました、勇さん! あなたは、もっと男らしい立派な人だと思っていた」
「そう言うなよ」
 げらげらと豪快な笑い声。
「あんたがいけないんだよ、先生。あんたが、そんな生真面目そうな顔をしていながら、色っぽくて可愛いから、どうも、たまらない気持ちになってしまう。ああ、指が震えているな。それなら、釦だけは俺が外してやろう。いいでしょう、雨沼さん?」
「かまわんよ。それも絵になりそうだな」
 望はたまらなくなった。気づくと、縁側に膝立ちになっていた。あまり近づけば、向こうからも自分が見えてしまうかもしれないが、我慢できず、膝を進める。
「あ、あなたが、こんな卑劣……愚劣な人だと知ったら、仁さんはどう思うでしょうか?」
「仁は、俺の本性をとっくに知っているさ。ほら、釦ははずしたぞ。ああ……やっぱり綺麗な肌だ」
「あっ……!」
 ガラスの向こうで、香寺が身をすくめたのが見えた。
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