昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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夏前の夜 六

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 そういったところすべてを、望は好もしく思って、仁に対する想いほど激しくはないが、香寺に、ほのかな恋愛感情めいた気持ちも持っていたのだ。自分では恋愛感情という自覚もないが。
「さぁ、先生、次は下を脱げ。男らしく全部脱ぐがいい」
 勇は容赦なく命じる。
 香寺は唇を噛んで、悔しげに勇を見つめた。
 だが、逃げれるすべもなく、おずおずと残った着衣を脱ぎはじめた。
「うっ……」
 こらえ切れない嗚咽をこぼしながら、肌をあらわにしていく香寺の姿は悲愴である。
 男には珍しいほど白い肌が、薄明りに照らされて、雪見障子の硝子の向こうに浮かびあがる。
 望は呆然と見守っていた。
 いつもシャツの襟元まできっちりと着こんで、どんなときも楚々として静かな風情の香寺の、こんな浅ましい姿を見ることになろうとは……。
 どこへ行くときも書物をたずさえ、暇さえあれば読書に耽っている香寺は、いつか言っていたことがあった。
 本当は文学の道に進みたかったのだ、と。だが、文学では身を立てるのは難しい。逼迫する実家の家計をかんがえれば、好き勝手なことをできるわけもない。夢をあきらめて寂しそうに笑っていた彼が、そのとき窓辺で読んでいたのは、『源氏物語』だった。
 文学を愛し古典に親しむ生真面目な若き美貌の書生……。欲望に燃える男たちには格好の欲望の対象だろう。
 ほぼ全裸にされて、獣欲にたける二人の男の目に、汚れひとつない清らかな肌を晒されて震えている香寺は、哀れの一言だった。
「ほう。けっこう立派な身体ではない。陰間みたいにひ弱かと思っていたが、どうして、どうして、ちゃんとした日本男児だ」
 御大尽らしく座ったまま腕を組んで見ていた雨沼が、感心してうなる。
「肌は白いが、肉は張りつめて、芯がありそうだな。まぁ、細いことは細いが、充分男らしい。おい、先生、せっかく人が誉めているのだから、泣くことはないだろう」
 言って、からかうように勇が濃い眉を丸くする。
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