昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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夏前の夜 七

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 雨沼も尻馬に乗るようにして揶揄の言葉をはなつ。
「それに、いつまでも、そんな女みたいに隠すものではない。男らしい身体つきなのに、その手は陰間みたいではないか。ほら、手をどけて、堂々と見せてみろ」
 それでも香寺は言われたことをしようとはしなかった。
「手をどけろと言っているのだ!」
 勇の怒声がガラスを突き破るようにして望の鼓膜に轟いた。
 望は身をすくめた。
 軍人だけあって、声は大きく迫力がある。民間人なら、怯えてちぢこまってしまうだろう。まして香寺はもともと文弱の傾向がある。
 香寺の繊細な神経は、勇の一喝で傷つけられ、心は砕かれてしまったのだろう。
 啜り泣きながら、香寺は言われたとおりにした。望がいるところからも、香寺の細い身体が恥辱に痛いほどに震えていることが知れる。
 望は香寺への同情心でいっぱいになりながらも、たかぶる獣欲は勇のものと同じだった。
 隠すもののない香寺の裸体は、ガラス窓に浮かんだ一幅の絵だ。
 学友たちの身体とも、夏ともなれば肌をあらわにして汗を浮かべている肉体労働者たちの身体ともまるで違う、別の人種の身体がそこに浮かんでいた。
 先日、別荘で見た仁の身体と似ているかもしれない。いや、仁よりまだ歳が若い分、香寺の方が柔らかそうに見える。仁は軍人だけあって鍛えてあったが、香寺の身体はかなり柔弱に見えるが、ひ弱というには張りがある。
 望は静かに息を飲んでいた。
 同じ男の身体であっても、香寺や仁のような男の身体は、なんと違って見えることか。
 勇の男性的な美ともまるで違う、別種の美に満ちているのだ。
 獅子や虎の美しさと、孔雀や白鳥の美しさが違うように、仁や香寺のような男たちの美は独特だ。だが、なまじ美しく生まれた男というのはときに不幸である。特に今の時代には。
 窓ガラスの向こうで裸で震える香寺の身体を見ているうちに、望はたまらない気持ちになってきた。
 見てはいけないものを見ている驚愕と、説明のつかない失望と、抑えきれない興奮に、望の胸は破裂しそうになった。
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