昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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夏前の夜 十

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 銀行の倒産がつづくようになっても、彼だけは世間の不景気をどこ吹く風と泰然とし、日本の支配階級のあいだで大手を振ってのさばっている豪傑である。
 裏の世界にもつながりを持ち、後ろ暗い事業にも手を出し、政官財界の大物ともつながり、また彼らの秘密も握っているという、誰も手出しできない妖怪のような男だ。
 金に対する執着以上に色の道にも貪婪で、未亡人の華族婦人から田舎出の女中と、身分の高下を問わず数多くの愛人を持ち、これと狙った相手は必ず手に入れなければ気がすまない、という漁色家。女のみならず、男色の趣味があることでも一部で有名であり、いわば、欲の塊のような男である。
 性に対しても執着、欲望はすさまじく、彼の相手をした者のなかには自殺した者や心を病んでしまった者もいると、この春、夜桜見物の宴で、酒に酔った大人たちが噂しているのを聞いてしまったこともある。
 そんな男に見初められてしまったのは、香寺にとっては不幸でしかない。
 雨沼は香寺のいじらしい潔癖ぶりを肴に酒を味わい、分厚い唇を舐める。ひからびた蜜柑の皮色をした肌は、頬から猪首にかけてだらりとしており、大きな黒子がいくつも見える。
 醜いな、と望は思っていた。この醜い男が清廉な香寺を自由に扱えるのだから、金の力とはすさまじい。
「どうかね、香寺君の菊は?」
「きれいなものですよ」
 勇はいっそう身をかがめ、香寺の臀部を抑え込んで、秘めた菊の蕾を鑑賞する。香寺の嗚咽が響いてくる。 
「ああ……可愛いな。そんなめそめそしているあんたを見ていると、ますますたまらなくなってくる。さぁ、いい子だ。今度は、茎の方を可愛がってやろう」
「ひっ……、」
 否応なしに勇は香寺の身体をふたたび振り向かせ、雨沼の前に立たせた。
「い、いや……」
 あますところなく見られる羞恥と屈辱に、香寺は身をよじる。
「色っぽいな。儂は毛唐にはあまり興味ないが、どことなくルドルフ・ヴァレンティノを思い出させるな」
 雨沼は上から下まで香寺を凝視して、数年前に亡くなった美男で知られる外国人俳優の名を挙げた。
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