昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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時分の花 十一

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「僕も先生が漏らすところを見たいです」
「ああっ……!」

 そのあとの香寺はまたいっそう健気だった。 
 耐えきれないところまで攻めたてられた彼は、ついに自らを弾けさせた。
「はっ……ああっ!」
 閉じた瞼からあふれる涙を、美しいと望は思った。
「嫌がっていたわりには、先生、また派手にぶちまけたじゃないか?」
 勇の残忍な嘲弄にも香寺の閉じた瞼はひらかれない。あきらめたように言葉の打擲を受けとめている横顔は、感情を摩滅させてしまったようだが、それでも時折かなしげに眉が寄せられ、望の胸をさわがせる。
 望をふくめて三人の男たちに粗相をわらわれ、羞恥にふるえる様子は、純白の百合が散ったようで、悲しい絵を見ているような錯覚を望に起こさせる。
 望はたまらなくなった。
「先生、可愛い」
 すすり泣く香寺を、望は背後から抱きしめた。
 憎いから苛めるのではない。好きだから苛めたくなるのだ。それを伝えたかった。
 背後から抱きしめられた香寺が、一瞬ふるえたのが知れる。
 望の腕には、さすがに少し大きいが、やはり細い身体が、愛しくてたまらない。
「先生、俺、今夜のことは忘れません」
 自分を俺と呼び、大人の男のような言葉を吐いた。
「うっ……」
 香寺の方が幼い子どものように泣きじゃくるだけだった。
 
 こうして、望は男としての階段を一歩あがった。
 このときから香寺は望の獲物となったのだ。
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