昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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黄昏の季節 五

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「牛雄、これで先生の両手を縛るといい。もう逃がさないぞ」 
 悪戯っぽく言うと、柔らかそうな薄紫の絹紐を牛雄にわたす。
 牛雄は興奮した顔つきで、言われたとおりに香寺の両手を後ろ手にして縛っていく。意外にもその動作は機敏だった。
「う……」
 痛みにか屈辱にか、香寺が眉を寄せると、牛雄の手が一瞬とまる。そして少しゆっくりとした手つきで縛る。
(こいつ、本当に先生が好きなようだ)
 醜い大男を観察するように眺め、望は内心笑った。
「そうだな……。牛雄、先生をここへ、椅子の上に」
「うう……」
 いやがる香寺を椅子の上にうつぶせにして、紐は椅子の背もたれに縛りつける。背もたれは木造だが、上半身が触れている座面は革張りなので、痛くはないだろうと望は判断した。
「よ、よせ! い、いやだ!」
 尚もあばれる香寺を抑えこむため、今度は望も手を貸した。
「……よし、できた」
 望は自分の両手をはたいた。
 香寺は両手を後ろで縛られたまま、上半身うつぶせで座面に顔をつけんばかりの体勢で、身動きできない状況だ。
 畳の上に両膝をつき、自然、腰を突き出すような姿勢になってしまっている。
 彼の手首をしばっている藤紫色の紐は、縦に格子状になっている楕円形の背板の頂点のところにきつく縛りつけられており、かなりしっかりとした縛り方で、望でもほどけそうにない。こういうところ、牛雄は重宝だ。
(馬鹿も使いようだな)
 傲慢なことを考えながら、望はあらためて香寺の妖しくも奇妙な姿を見た。
「うう……!」
 焦げ茶色の革張りの座面に押し付けられている横顔には、悔しさが滲みでている。
「こんな……、こんなことをして……、きっと後悔するからな!」
 望に何度も抱かれ、そのつど泣き顔を見せながらも、時折香寺は気強い顔も見せる。そのたび望は興奮に背がふるえる。
(今日は徹底的に征服してやる)
 闘志にも似た熱い想いが胸を沸かす。
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