昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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黄昏の季節 八

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 そう言って、話しかけることを止めなかった。
 真面目で学問好きの彼は自身が学ぶことが好きなのと同様、他者を教え導くことに喜びを感じるのだろう。
 だが、そういう香寺の善良さと、優しさ、美しさが、牛雄の羨望と欲望をかきたてたのだ。
 自分にはまったくない知性と美を備えた香寺を見る目に、情欲がにじみはじめていたのを、望は感じとっていた。
 香寺がこの野人に親切にするのを、望は以前から心良く思っていなかった。おそらくは、自分だけの家庭教師がほかの人間にかまうのが許せないという、子どもっぽい嫉妬がまじっていたのだ。
 幼稚な独占欲と征服欲。それが今最悪のかたちで弾けてしまった。
「く、くるな! 出ていけ! 出ていってくれ!」
 香寺の悲痛ささえ感じさせる声に、牛雄はたじろいだ。
「牛雄、どうしたんだい、そんなにおどおどして? 僕が、いや俺がいいと言っているのだから、遠慮なく見るがいい」
 香寺は戒められた状態で必死に抗ったが、椅子が無意味に音をたてるだけだった。
 そんな家庭教師の哀れなすがたを見て、望は笑っていた。少年らしくない邪悪で険悪な笑い方だ。
「ほうら、見てみろよ、牛雄」
 言うや、望は香寺の左右の尻たぶに両手をかけ、心もちひろげる。
「ああっ!」
 空気を感じて、香寺が絶望的な悲鳴をはなった。
 今度は牛雄もひきさがらなかった。よく見ようと望の側へにじり寄る。
「うう……」
 牛雄は感嘆したように喘いだ。
 黒い頬を赤く染め、目はたぎるばかりに欲望と好奇心に燃えている。
「どうだ、牛雄? あこがれの香寺先生の……蕾は? 可愛いだろう? とても同じ男とは思えないだろう?」
 こく、こくと牛雄が首を縦に振る。幼児のような仕草であり、知能もやはり子どもほどにしかないのだと望は蔑んだ。
「香寺先生、牛雄が涎を垂らして先生の秘密を見ていますよ」
 香寺が全身で身をよじるのを面白そうに見つめながら、なおも望はつづける。
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