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再生の日 一
しおりを挟む望は田舎道を歩いていた。
杉の林から鳥の鳴き声が聞こえてくる。
舗装されていない道は歩きづらいが、木々の織り成す緑の絵は爽やかにして美しく、歩いているだけで清々しくなる。この季節は朝が一番すばらしいと望は実感する。
祖父崇の住まう別荘には、今、父忠をはじめ、叔父の勇や叔母の清、清の子であるいとこたちも集まっていた。
祖父とは不仲だった父も、いよいよ崇の命が旦夕に迫ってきては、ほうっておくわけにもいかず、駆け付けたのだ。ただ、望の母は東京の家に弔問客が来た場合にそなえるという名目で、家に残っている。
もともと折り合い悪い舅と嫁のあいだがらであり、そもそも父が母と結婚したことがきっかけで祖父との関係が悪化してしまったのであるから、妻をつれてくるわけにはいかなかったのだろう。臨終まぎわとはいえ、祖父は過激な性格なので、母を見るとなにを言うかわからない。
母も口には出さないものの、義父を毛嫌いしていた。
望も、祖父を嫌う母を責めるつもりはなかった。
(お祖父さまは……本当に死ぬのだろうか)
危篤といわれて駆け付けたものの、三日たった今でも祖父は生きている。寝たきりではあるが、生きて呼吸をしていることは確かだ。
しかも虫の息でありながら、今生の別れにと訪れる旧知の客人には対応しているのだ。
といっても一言二言、言葉を交わすぐらいだが、それでも客たちは一様に満足して帰っていく。
客の多くは、むかしの友人、知人、仕事上関係があった者などで、たいていは老人であるなかに、時折、女もいる。見るからに水商売ふうの女や妾稼業らしき女、置屋の女将や若い芸者なども来るのには、この期に及んで……と望ですら呆れた。
正直、集まった親族たちは、祖父の生命力の強さ、というよりも生への執着にうんざりしてきているのだ。
早く死んで欲しい――。それが偽らざる大人たちの気持ちだということは、望にもわかった。
望もまた祖父の死を願っていた。
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