123 / 190
再生の日 六
しおりを挟む
非難と媚びを込めた言葉を吐きながら、平然と玉琴は上がり框に足をかける。
「ちょ、ちょっと……! なにするの?」
「ええやないのぉ、一目ぐらいお父さんに会わせてくれたかってぇ。姐さん、いくらあたしにお父さん取られたからというても、あんまりやないの?」
女の発言もさることながら、望は彼女が、都のことを玉虫と呼んだことに気を引かれた。
怪訝な顔になっていたのだろう、玉琴は望に目を向け、紅い唇で笑った。
「この人ねぇ、昔は、あたしと一緒に芸者をやっていたんよ。玉虫という源氏名でね。あたしの姐さん芸者。いっしょに、ようお座敷よばれて仕事したんよ」
望はびっくりした。
だが、言われてみれば、謹厳ななかなにも、都にはどこか艶めかしいところがある。時折ひどく若く見えるときもあり、それは花柳界の水を飲んだ者が持つ、特別な女の色気が彼女のなかに残っていたからかもしれない。
望は知ったところで、それで都を蔑むような気持ちにはならなかった。
しかし前身を暴露された都の顔には、青筋が立ちそうだ。
「と、とにかく今日は帰りなさい。また、日をあらためて呼ぶから。今日はご親族の方々がお集まりなのよ」
後半の言葉は、どこか哀願調だ。
「なら、なおさら、会いたいわぁ。忠様や勇様もいらっしゃるんやろ? お顔見たいわぁ。勇様、さぞ男前になったんやろなぁ。ええやないの。皆さん、知らん仲でもないんやしぃ」
都の手を取り、身体をくねらせるようにして頼む玉琴の濃密な媚態は、薄暗い土間の空気を桃色に変えていくようだ。
「あんたっていう人は……」
都の目が吊りあがる。
だが、望は別のことが気にかかった。
この玉琴という女と都が芸者をしていたというのは、いつ頃のことなのだろう。
都がいくら若く見えるとはいっても、五十は過ぎており、そろそろ六十近い歳だと聞いたことがある。この玉琴という女は、三十を過ぎているとしても、どう見ても四十にはいっていないだろう。二十近く年齢差がある芸者が、いっしょに仕事をするものなのだろうか。ないとはいえないものの、二人が一緒にお座敷によばれている姿を想像すると、不自然な気がした。
「と、とにかく今日は駄目なのよ。大旦那様、こんどこそ危ないようなの……」
言葉の語尾は消えそうだ。
「ちょ、ちょっと……! なにするの?」
「ええやないのぉ、一目ぐらいお父さんに会わせてくれたかってぇ。姐さん、いくらあたしにお父さん取られたからというても、あんまりやないの?」
女の発言もさることながら、望は彼女が、都のことを玉虫と呼んだことに気を引かれた。
怪訝な顔になっていたのだろう、玉琴は望に目を向け、紅い唇で笑った。
「この人ねぇ、昔は、あたしと一緒に芸者をやっていたんよ。玉虫という源氏名でね。あたしの姐さん芸者。いっしょに、ようお座敷よばれて仕事したんよ」
望はびっくりした。
だが、言われてみれば、謹厳ななかなにも、都にはどこか艶めかしいところがある。時折ひどく若く見えるときもあり、それは花柳界の水を飲んだ者が持つ、特別な女の色気が彼女のなかに残っていたからかもしれない。
望は知ったところで、それで都を蔑むような気持ちにはならなかった。
しかし前身を暴露された都の顔には、青筋が立ちそうだ。
「と、とにかく今日は帰りなさい。また、日をあらためて呼ぶから。今日はご親族の方々がお集まりなのよ」
後半の言葉は、どこか哀願調だ。
「なら、なおさら、会いたいわぁ。忠様や勇様もいらっしゃるんやろ? お顔見たいわぁ。勇様、さぞ男前になったんやろなぁ。ええやないの。皆さん、知らん仲でもないんやしぃ」
都の手を取り、身体をくねらせるようにして頼む玉琴の濃密な媚態は、薄暗い土間の空気を桃色に変えていくようだ。
「あんたっていう人は……」
都の目が吊りあがる。
だが、望は別のことが気にかかった。
この玉琴という女と都が芸者をしていたというのは、いつ頃のことなのだろう。
都がいくら若く見えるとはいっても、五十は過ぎており、そろそろ六十近い歳だと聞いたことがある。この玉琴という女は、三十を過ぎているとしても、どう見ても四十にはいっていないだろう。二十近く年齢差がある芸者が、いっしょに仕事をするものなのだろうか。ないとはいえないものの、二人が一緒にお座敷によばれている姿を想像すると、不自然な気がした。
「と、とにかく今日は駄目なのよ。大旦那様、こんどこそ危ないようなの……」
言葉の語尾は消えそうだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
25
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる