昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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再生の日 七

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「あら、ずるいわ、姐さん、それなのにあたしを追い返そういう腹なの? 前から思うていたけれど、あんたってほんまに腹黒いお人やねぇ」
 怒りつつも、やはり言葉や身体からは、ねっとりとした官能めいたものがただよってくる。芸者というより……、――望は見たことはないが――手練れの遊女や娼婦というのはこういうものではないだろうかと思った。
「と、とにかく、帰ってちょうだい」
 都が威厳をとりもどして気強く言い放ったそのとき、廊下のおくから足音が響いてきた。
「都様、大旦那様がお呼びです! 皆様、お部屋にあつまるようにと」
 文があわてふためいて裾を乱すようにしてあらわれた。
「まぁ……!」
 いよいよ、なのか、と望も思った。
「旦那さんが? どいて!」
 玉琴が都を押しのけ、あがりこむ。文は強引にあがりこんできた女に驚いた顔をしている。
「こ、こちらの方は?」
「どいてや!」
 文を突きとばすようにして玉琴は廊下を進んでいく。
「駄目よ、ちょっと!」
 都の声を無視して玉琴は勝手知ったる屋敷とばかりにどんどん進んでいく。
 女の強引さと荒々しさ、それでいてやはりしなをにおわせる動作に、望も圧倒されて止めるどころでない。
 この女は、もしかしたら自分が生まれる前からこの屋敷を我が物顔にうろついていたのかもしれない。そう思わせるほどに玉琴の足取りは確かで迷いがない。
「お待ちなさい! 待って……!」
 都が必死に玉琴を追う。
 闖入者の玉琴を先頭に、都、望、文とつづいて廊下を小走りに急いでいるのは、はたから見れば滑稽だろう。

 祖父は重篤になってから、庭が見渡せる室を使っていた。
 それを知っていたかのように玉琴の足取りは迷うことなくその座室の前で止まり、立ったまま襖を開けた。
 白檀の香りが弔いの近いことを思わせて不吉にかおってくる。
旦那だんさん! 玉琴ですえ!」
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