昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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再生の日 八

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 布団に横たわっていた崇は、意識はあるらしく、その声に反応した。
「……おお、玉琴か? 久しぶりじゃな」
 危篤と思われていた老人にしては、驚くほどしっかりとした口調だ。
「旦那さん!」
 玉琴は近寄り、布団の側に膝をついた。
 室には父忠をはじめ、勇、仁が並んで座っている。父と仁は黒い背広姿で、勇は今日も軍服姿だ。その三人に隠れるように章一が小さくなって座っている。
 清と啓子はつい先ほど崇の命によって帰されたという。臨終の場に女はいてはいけないという崇の指図だと、あとに望は都から聞いた。
「旦那さん……。ああ、すっかり老けてしまわれて」
 女の嘆きは場違いのような気がして、望には面白く思えたが、もちろん誰も笑わない。廊下に座って控えている都をふと見ると、その顔はひどく苦々しげだ。
 父忠も苦虫を嚙みつぶしたような顔をし、勇は苦笑いしている。仁は眉をひそめ、その影にかくれるように身をすくませている章一は、可愛い顔をのぞかせ、唖然としている。
「ふぉっ、ふぉっ……」
 祖父が咳込んだのかと望は一瞬思ったが、ちがった。笑っているのだ。
「玉琴、おまえは相変わらず若く美しいのぅ」
 老いた手が伸び、玉琴の頬を撫でる。
 望はぞっとした。
 この期におよんでも、祖父の生と性への執着は消えていないのだ。
「旦那さん……、こんなに老いてしまわれて……。可哀そうに。あたしがすぐ若がえらせてあげるからね」
 玉琴は幼女のように崇にしがみつき、いたわるよう薄くなった頭をかき抱く。
 内心、死にかけている老人によくあんなふうに触れるものだと望は感心した。
 もはや望にとって祖父の肉体は、死穢をにじませる汚れた物体でしかない。だが玉琴は、愛しげにその頭を抱きしめ、首に手をまわす。その首のあたりも、望にはひどく不潔に思える。
「旦那さん……」
 玉琴の切れ長の目が閉じられ、頬に光るものが流れる。紅い唇がかすかに開いたかと思うと、望は奇妙なものを見た。
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