昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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再生の日 十二

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「今日集まってもらったのは、他でもない。儂も、いつどうなるかわからぬ状態じゃ。今のうちに、次期伯爵を決めておこうと思ってな」
 父、勇、仁の顔に緊張がはしった。
 ぎゃくに望や章一は、やはり子どもの気軽さで、ぼんやり大人たちの様子を見ていた。
「儂は決めた」
 かわいた声が和室に響く。
 大人たちは石のように固まって、崇の次の言葉を待っている。

「儂のあとは……、望、おまえが当主となれ」
 望は一瞬、何を言われたかわからず、ぽかんとしてしまっていた。
 父を見ると、その横顔は無表情だ。
 勇と仁はさすがに驚いた顔をしているが、何も言わない。崇の意見は絶対なのだ。
「儂はそう長くない。儂が死ねば、すぐ望が相馬伯爵となる。もちろん望はまだ若輩じゃ。おまえたちが望を支えてやるのだぞ。……異論はないな?」
 まったく実感がない望は、祖父のくだらない冗談に彼らが付き合っているのではないかと疑ったが、どうやら祖父は本気なのだと理解しはじめた。
「わかりました」
 父は、嫡男の自分をまったく無視しした祖父にたいして、恭しく頭を下げる。左隣に座っている勇や仁も忠にならって頭を下げる。
 さすがに三人とも貴顕の家に生まれ育っただけあって姿勢正しく、所作が美しい。
 勇や仁はそれぞれ秀麗な美貌で知られているが、望の父忠もまた美男であり、若いころは今の勇や仁とおなじぐらい、そのすぐれた容姿を世間で誉めそやされたと聞く。四十を過ぎた今も、日本人ばなれした彫の深い顔に、往時の美貌は、残炎のようにちらついて、見る者の目を焦がす。
 そんな見栄えの良い三人が並んで頭を下げている様子は絵にしたいほどである。
「望、おまえは相馬の当主だ。これからは、そのつもりでふるまうように」
「え? ええ……」
 思わず漏れた言葉は、了解よりも、困惑を含んでいた。
「あ、あの……、僕はまだ子どもで」
「儂が決めたのだ」
 いっさいの反論は許さん、という意味が感じられる。誰も言葉を返そうとはしないなか、祖父は土気色した腕を振った。
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