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秘密 二
しおりを挟む望は息を吐き、とにかく室から出ようと、身をおこした。
刹那、激しい痛みを頭に感じ、そのあと視界は真っ暗になった。
(油断したわ。……そろそろ身のまわりの整理をしておこうと思って片づけようとしていたところに……)
(そういうところ、姐さんは抜けているねぇ。賢いくせに肝心なところでへまを踏むのだから……)
うるさいわね!
最後の言葉は望の耳をつんざくようにして鼓膜に響いてきた。
「あら、お坊ちゃまがお目覚めよ。ご機嫌はよろしいかしら?」
はげしい頭痛をこらえて、どうにか起きあがると、そこにいたのは玉琴だ。隣には都が座っていた。
だが、それはいつも望が見慣れていた都では、もはやなかった。
肌は青白く、目には激しい苛立ちがこもっている。
「まったく!」
都は膝をたたいた。
「望様、なぜあの部屋に入ったりしたのでございますか? もう少しで全てうまくいって、今度の代替わりは無事に済むと思っておりましたのに」
都は悔しげに、呻くように言う。
「あ、あんたたちは……、いったい、何者だ?」
望はぐらつく身体でどうにかして布団の上に身を起こした。後頭部がズキン、と痛み、一瞬、嘔吐しそうになったが、どうにかこらえられた。
「あ、あんたたち……、いったい何歳になるんだ?」
玉琴は着物の袂で口をおおった。
「ほほほほほ。坊ちゃん、女に歳を訊くものではありませんよ……。そうね。私たち本当は三百、いえ、四百はとうに超えているかしらね」
笑っている妹分とは逆に、都は眉をしかめて苦い顔になる。
「冗談やめろよ……」
望の言葉の語尾が弱くなるのは、あの新聞の切り抜き記事を読み、写真を見たせいだ。
写真といっても古いものではっきりとはわからないが、そこに見たのは、二人の芸者で、その名も記事には玉虫、玉琴の姉妹芸者とあった。
明治といっても、ちょうど終わりの年であるから、当時の芸者が生きていても不思議ではない。だが、納得いかないのは年齢だ。どう見ても、写真に写っている玉琴は今と変わっていないように見える。都だとて、本当ならもっと老けて見えてよいはずなのだが、そう見えない。
芸者は普通の女性よりかは美容技術に精通しているので若く見える者も多いだろうが、それでも玉琴の若々しさは異常である。
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