昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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玻璃の夢 一

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 ちょうどいいときに、また便利な隠れ蓑も見つけたそうでね。
 ちなみに、主のような人種にもいろいろ違いがあってね、血を吸う者もいれば、生気や活力を吸うもの、また稀には相手の身体をそっくり奪うことができるようなものもいる。
 え? 奪われた方はどうなるのかと? 
 肉体はのっとられたまま生き続けるだろうが、肝心の心、というのか、当人の魂は消えてしまっているさ。事実上の死と変わらんね。


 ここへ来るのは、何年ぶりだろう。
 私は、茜色に染まった空のもと、すっかり廃屋と化した祖父の屋敷を見上げた。
 祖父が死に、終戦のごたごたで、使用人たちはちりぢりになり、管理する者も訪れる者もいないままに、屋敷は荒れはてていた。
 庭木も枯れ、屋根はところどころ瓦が欠け落ち、壁は崩れているところも目立つ。まさに化け物屋敷だ。
 どうしてまたここへ来てしまったのか。
 ここへ来れば、もしかしたら会えるのでは……、と思ったせいか。
 一族のうえに絶対者として君臨していた祖父も、伯父も、私の父も亡くなり、もはや相馬の家は絶えてしまった。
勇さんは消息不明で、仁さんは、家を売るとき整理していた母の荷物のなかから訃報の葉書が出てきた。母は今精神病院に入院している。
 相馬家は滅んだのだ。
 牛雄が相馬姓を名乗ってはいても、かつての相馬家とはもはや違う。
 草の生い茂るあばら家に、私は足を踏みいれていた。
 かび臭い。
 靴のまま廊下をすすみ、開けたままの和室をいくつか覗いてみた。
 私が動くたびに埃がまいたつ。すでに夕暮れで、もちろん電気も通っていないので、屋敷のなかはひどく薄暗い。
 しばしぼんやりとしてしまっていた私は、その声を聞いたとき、錯覚だと思った。
 
 〽花にあわせ まつとせの あけてうれしき けそうぶみ ひらくはつねも はづかしく まだ解かねる うすごふり……

 途端に、私の耳に遠い日の声がよみがえる。
 お正月の晴れやかな空気、屠蘇の杯、大人たちのにこやかな顔、芸者衆の歌声。
 閉じた目に、平和と繁栄の日の光景が浮かびあがってくる。
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