昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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玻璃の夢 二

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 どれぐらいそうしていたか、僕はしばし目をつむって別の世界を見ていた。
 無双連子むそうれんじ窓から差し込む夕日なのか、月光なのか、ほのかな明かりに照らされ、和装の女性が三味線を奏でていた。
 装いから芸者だとわかった。
 耳に響いていたお座敷歌は、どうやら彼女がうたっていたようだ。
 やや俯きかげんで三味線を弾く女に、記憶の糸を引っ張られ、僕はしばし少年時代の夏の残影に翻弄される。 
 母、姉、伯父夫婦、望、勇叔父、仁さん、望の家庭教師だった香寺さんも見えてくる。
 香寺さんも戦争へ行って帰ってこなかった男たちの一人だ。
 だが、風の噂に聞いた話では、戦争で死んだのではなく、それ以前に軍隊の兵舎で死んだのだそうだ。軍隊生活に耐えられず、厠で首を吊ったという。
 おそらく、そうとう辛い目にあったのだろう。それこそは、少年だった僕が最も恐れたことだ。幸い僕が徴兵されるまえに戦争は終わったけれど、もし長引いていたら、僕もまた過酷な男社会のなかで自殺をしていたかもしれない。 
 朧な女は、顔をやや伏せるようにしているが、勝山のかたちにこしらえてある髪型が良く似合っており、なかなかの美人だと思えた。夜目にも白く見える顔、細い首、黒紋付の着物は実に粋で、昨今なかなか見られなくなった風情をたたえて、なんとも麗しい。
 見とれているうちに、思い出した。
 この芸者は……、都だ。

 〽ゆきにおもへば ふかくさの 百夜も通ふ こひのやみ きみがなさけの かりねのとこに まくらかたしく よもすがら……

 幽霊? そう思っている自分を笑えない。
 もしかしたら人の想い、情熱、執着、未練などは、当人が死んでも、この世にのこって、まるで虹のようにどこかで見えるものなのかもしれない。それを幽霊と人は呼ぶのかもしれない。

 都が、もしくは都の幽霊が、ふと驚いたように僕を見た。
 この幽霊は、僕がわかるのかと思ったが、違っていた。彼女が驚いた理由は別だった。
 都は悲鳴をあげた。だが、実際に声は響いていなかったのかもしれない。
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