昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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玻璃の夢 四

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 章一の魂、心がまったく死んでしまったわけではない。僕と章一の心が一体化した、と言った方がよいかもしれない。どうやら自我の強い方が、肉体の言動を決めるらしいが、章一の心もわずかに残っている。
 章一の身体に僕の意識が入ったとたん、章一の記憶や知識が、水が土にしみこむように僕の頭に入ってきて、仁さんや香寺先生の死を知り、そのことに僕はかなり動揺した。
 仁さんは、やはり相馬家の人間だから、決してそのまま死んだとは思えない。またどこかで会える気がする。
 だが、香寺先生は……。
 章一の身体を得た僕が、その身体でもって最初にしたことは、香寺先生のために泣くことだった。
 香寺先生には、ひどいことばかりして、一度もまともに好きだと伝えることができなかった。
 あの繊細でか弱い人が兵隊になどなれるわけもないのだ。自ら死をえらぶまでにどれだけ辛い想いをしたか……。
僕がいたら、相馬家の力や、僕自身が相馬家から感化されて得た力をつかって、なんとか守ってやれたかもしれない。
 だが、僕はあの人を守ってやれなかった。
 好きだと――愛しているとまでは言えなくとも、すくなくとも好意があったことだけは伝えたかった。向こうにしては、凌辱されて傷つけられたことに変わりはないだろうけれど、僕のしたことの根底には、香寺先生にたいしての執着なり情熱はあったのだ。
 香寺先生のことを思い出して、こんなにも胸痛むのは、章一の気弱い性分が出てきているのか、もともと僕にも感傷的な気性があったのか……。
 これから、どうするか。
 屋敷の朽ち果てた扉をあけ、濡れた頬を月光に照らし、僕は足を動かした。
 とりあえず、生きる方法をさがさないと。
 なんとかなる。今の僕はそのまま章一の立場を受けついだし、相馬の連中とかかわったことで彼らの特殊能力も多少は得ている。仕事でもその力は生かせるはずだ。雨沼のように。
 もちろん、普通の人間とは違ってしまったかもしれないが、普通など、もうどうでもいいことだ。 
 そうして生きつづければ、どこかで仁さんや忠さんと出会えるかもしれない。
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