鈴の鳴る夜に

文月 沙織

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淫ら絵 五

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 尻を撫でながら、ふざけたように小島が訊くのに、鈴希は涙声になって叫んでいた。
「あ、当たりまえだ! ……た、たのむ、もう止めてくれ……」
 この恰好で写真に撮られるなど耐えられないのだろう。しかも、それを自分を金で買おうという男に見せるというのだ。
 小島は首をふった。
「止めてください、でしょう? 人にものを頼むときは口に気をつけないといけませんよ。こんな調子では川堀様を満足させられないかもしれませんね。少し調教を急がないといけないかな」
「ううう……」
 いたぶりの言葉に全身を悔しさに身もだえしながらも、どうしようもなく鈴希は声を出した。
「た、頼みます……お願い……だから、もうやめて……ください」
 小島は満足そうに微笑み、右手でいつくしむように鈴希の尻たぶを撫でている。尻の中央でふるえる杜若の花が、いっそう鈴希の惨めさと、惨めであればあるほどたかまる悲愴な美を強調する。じっくりと主の哀れなすがたを眺める小島の目はうっとりとしてきている。肉の柔らかさと固さをたしかめるように両手で尻を揉みはじめた。
「あ、触るな! よせ、やめろったら! ……うっ……、うう!」
 鈴希のもらす声には嗚咽がまじりだした。
 それは、男が持ってはならないほどの美を持ってしまった者が背負ってしまった宿命に泣く声だろう。
 これほどに美しく気品ある人が、今のこの時代に生まれ、没落していく家の末裔として責任を背負わされたことは、ある意味、すべてが天の必然だったのかもしれない。こうして、彼をとりまく時代や状況や人間関係が、すべてかさなって彼を最高級の男娼に堕としていこうとするのだ。彼を知る者は皆、それを固唾かたずをのんで期待し、待ち望んでいるのかもしれない、と見ている者に推察させる光景だった。
「そんなに写真に撮られるのはお嫌ですか、鈴希様? 気位のたかいあなたが、啜り泣くほどに?」
 小島の声はやさしげになった。
「うう……い、嫌だ。た、たのむから、もう止めて……。写真は止めて」
「しかたないですね」
 小屋にはりつめていた危険な空気がゆるんだ。だが、
「と、言ってやれたらいいのですが、川堀様の御命令なので、お許しください」
「あ、ああ!」
 残酷なシャッター音がひびきわたる。
「あ、ああ、い、いや!」
 鈴希の悲鳴のような声とともに、白い桃のような臀部の中央に植えられた青紫の花がふるえた。シャッター音はつづき、そのたびに鈴希の魂は切り刻まれていく。
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