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「……彼は本当に真面目なのだ。ああいう人物はきっと国の役に立つはず。ひどいことはしないでやってくれ」
 つい懇願する口調になってしまう。そのいつにない従順な態度を、アイジャルはどう思ったのか。目には奇妙な輝きがある。
「そうか。では、ラオ、きゃつを説得するのを手伝ってくれるか?」
「私に出来ることなら……」
 だが、ディアニスと顔を合わせるのは辛い。今のこの男妾おとこめかけに墜ちた自分に、彼は眩し過ぎる。
 彼も今のラオシンの境遇を聞き知っていいるはずだ。どう思われているのか……。想像すると背が寒くなる。
「なに、簡単なことだ。ラオが協力してくればよいのじゃ」
「……何をすればいいのだ?」
 アイジャルが悪戯そうに笑って、計画を口にすると、ラオシンは真っ青になった。

「いやだ! そんなことは絶対に出来ない!」
 怒りすら滲ませて反対するラオシンの顔を見つめて、おそらくは予想していたのだろう。アイジャルの目はますます輝く。
「まったく、ラオは少し素直になったかと思えば、まだまだ、じゃじゃ馬じゃのう。仕方あるまい、クマヌ、手伝え」
 呼ばれて、外に控えていた従者が数人あらわれた。一番目立つのは、力仕事を主とする巨体の宦官クマヌである。
 皆宦官兵らしく日にやけた黒い肌に、簡素な室内用の軽い鎧を身に備えている。全員、髪を剃っているのが不気味だ。
「な、何をする!」
 ラオシンは慌てた。
 二人きりのときは蜜のように甘くラオシンを愛する従弟いとこの王者が、ときにひどく残酷で陰湿になることを身に染みて知っていた。    
 しかも加虐の趣味があるアイジャルは、ひどいやり方でラオシンを辱しめ泣かすのをなによりの楽しみとしているのだ。
 さらに情けないことに、最近ではラオシンもまた彼の甘美な鞭に酔い知れ、いつしか身に受ける被虐に快楽を感じはじめて、もはやすっかりその歪んだ喜びに身も心も慣らされ、はげしい快感を得るようにまでなってしまっていた。
 だが、やはり抵抗はある。
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