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二
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それを少しはなれたところでぼんやりとアラムは見ている。その表情は、一仕事ついてやや疲れたようでもあれば、自分の成し遂げた仕事をおろそかにされたような、いくばくかの悔しさも滲ませている。
そんな様々の様子を、アイジャルはいかにも王者らしく莞爾とした笑いを浮かべて、高見から見物するつもりのようだ。
必死に無表情をよそおっていたラオシンだが、ジャハギルの毛深い手ににぎられた美しく淫靡な道具を見ると、かすかに震えた。
「よ、よせ、来るな!」
うろたえて、後退りするラオシンを、周囲にいた宦官たちがおさえる。
どうあっても逃げ場などないが、それでもほとんど本能的な恐怖と忌避感におそわれてラオシンは抗わずにいられない。
「さ、殿下、良い子だからまたお尻を出してちょうだい。あんな子どもの舌なんかより、よっぽど楽しい気持ちにさせてやるわ。あたしも、こっちの腕にかけては巷じゃ相当のもんよ。どんな堅物だろうが、深窓のお嬢様だろうが、ジャハギル様の手管にかかったら、生まれながらの娼婦のように悶えるもんよ。殿下をもう一回天国へつれていってあげるわ」
おぞましい言葉にラオシンは蒼白になった。
「い、いやだ! もう嫌だ! さがれ! く、来るな!」
必死の抵抗は、かえって獣の心を持つこの男の嗜虐をそそるようだ。
ジャハギルは髭の剃りあとが青く不気味に見える縦長の顔を、いっそう醜くゆがめて笑った。
「ん、もう。殿下ってば、本当に聞き分けないわねぇ。あたしは殿下にとったら踊りの師匠でしょう? 『悦楽の園』で、みっちり教えてあげたじゃないの? そのおかげで、宴で殿下は花形になれたんじゃないのよ」
かっ、と全身の血が熱く燃えるのをラオシンは感じた。同時に、忘れようにも忘れられない、あの屈辱の夜のことがまざまざと思い出される。
脳をとろかす麻薬をふくんだ香料、淫楽な音楽、男たちの嘲笑。
そのなかで、煽情的な踊り子の衣装を無理やり着せられ、羞恥に死にそうになりながらも、死にもの狂いで踊っていた自分の淫らで悲しい姿を、ラオシンは歯軋りしながら思い出した。
よくぞあの夜、自分は慚死しなかったものだと思う。
そんな様々の様子を、アイジャルはいかにも王者らしく莞爾とした笑いを浮かべて、高見から見物するつもりのようだ。
必死に無表情をよそおっていたラオシンだが、ジャハギルの毛深い手ににぎられた美しく淫靡な道具を見ると、かすかに震えた。
「よ、よせ、来るな!」
うろたえて、後退りするラオシンを、周囲にいた宦官たちがおさえる。
どうあっても逃げ場などないが、それでもほとんど本能的な恐怖と忌避感におそわれてラオシンは抗わずにいられない。
「さ、殿下、良い子だからまたお尻を出してちょうだい。あんな子どもの舌なんかより、よっぽど楽しい気持ちにさせてやるわ。あたしも、こっちの腕にかけては巷じゃ相当のもんよ。どんな堅物だろうが、深窓のお嬢様だろうが、ジャハギル様の手管にかかったら、生まれながらの娼婦のように悶えるもんよ。殿下をもう一回天国へつれていってあげるわ」
おぞましい言葉にラオシンは蒼白になった。
「い、いやだ! もう嫌だ! さがれ! く、来るな!」
必死の抵抗は、かえって獣の心を持つこの男の嗜虐をそそるようだ。
ジャハギルは髭の剃りあとが青く不気味に見える縦長の顔を、いっそう醜くゆがめて笑った。
「ん、もう。殿下ってば、本当に聞き分けないわねぇ。あたしは殿下にとったら踊りの師匠でしょう? 『悦楽の園』で、みっちり教えてあげたじゃないの? そのおかげで、宴で殿下は花形になれたんじゃないのよ」
かっ、と全身の血が熱く燃えるのをラオシンは感じた。同時に、忘れようにも忘れられない、あの屈辱の夜のことがまざまざと思い出される。
脳をとろかす麻薬をふくんだ香料、淫楽な音楽、男たちの嘲笑。
そのなかで、煽情的な踊り子の衣装を無理やり着せられ、羞恥に死にそうになりながらも、死にもの狂いで踊っていた自分の淫らで悲しい姿を、ラオシンは歯軋りしながら思い出した。
よくぞあの夜、自分は慚死しなかったものだと思う。
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