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第三十話 別れと出会い、家族を繋ぐ縁の刻
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王との謁見を終えた翌日から、クラリスの周囲では静かに、けれど確実に変化の波が広がっていった。王命による婚約と進路の変更は、想像以上に影響が大きく、各所への説明と対応に追われる日々が始まった。
まず最初に訪れたのは王立学園。クラリスは学園長と各担当教員に呼び出され、飛び級試験の実施と卒業の見通しについて説明を受けた。クラリスは、王命により半年後には卒業し、婚姻を行う予定であること、その後は王城付きの役職に就くことが決まっている旨を、丁寧に伝えた。
「……急な話で、私たちも驚いていますが……どうか無理をなさらずに」
教員のひとりがそう声をかけてくれたが、クラリスはしっかりと頷いた。
「ありがとうございます。皆様のおかげでここまで学びを深めることができました。これからも精進いたします」
別れの時ではなかったが、それでも部屋を出る時には、胸の奥にじんと熱いものが込み上げた。
次に足を運んだのは、王立第一騎士団の医療班だった。ライナルト団長とイザーク団長の同席のもと、クラリスは静かに言葉を紡いだ。
「……これまで治癒士見習いとしてお世話になりましたが、王命により今後は治癒行為を王城内のみで行うよう命じられました。そのため、皆様と共に活動することができなくなりました」
医療班の者たちは驚いた表情を浮かべながらも、すぐに何があったか理解を示し、言葉少なに頷いてくれた。
「……事情は察しました。これから大変でしょうが、ご武運を」
「ありがとうございます。皆様のおかげで、わたくしは多くを学ぶことができました。どうか……お身体に気をつけて下さいませ」
医療班の隊員たちのまなざしは、どこか寂しげで、けれど温かかった。
帰り際、重傷者の建物の前に連れて来て貰い、深いカーテシーを暫くの間していた。それはクラリスの感謝の祈りのようだった。
続いてクラリスが訪れたのは、魔法師団の厩舎だった。そこには――ホワイトグリフォンの“ポンちゃん”が待っていた。ブルーの瞳と、全身真っ白な毛でしっぽを揺らして近づいてくる姿に、思わず頬が緩む。
「ポンちゃん……あなたに会う時間も少なくなっちゃうの」
ポンちゃんは鼻先をすり寄せてきて、まるでその意味を理解しているかのように、ぴたりと寄り添った。
イザークの計らいにより、ポンちゃん専用の厩舎が彼の私邸の敷地内に新設されることが決まっていた。クラリスは、今後は王城での暮らしが中心になるが、定期的にイザークの邸宅に足を運び、ポンちゃんと過ごす時間を確保することになった。
「もう、なかなか会いに来られないけれど……ちゃんとまた来るからね」
手綱をそっと撫でながら、彼女はポンちゃんにそう約束した。
そして最後に訪れたのは、週に一度の訪問を欠かさなかった孤児院――《ミラノの陽だまり》だった。
陽だまりのような笑顔で迎えてくれる子どもたちの姿が、何よりの癒しであったクラリスにとって、この別れが一番つらかった。事情を話し終えると、年長の子たちはすぐに理解を示してくれたが、小さな子たちは「やだ! くらりすおねえちゃん、いっちゃやだ!」と泣きながら抱きついてきた。
「ごめんね……ごめんなさい。でも、皆のこと、ずっとずっと大好きです」
そう言って、子どもたち一人ひとりを抱きしめ、名残惜しそうに手を振りながら、クラリスは後ろ髪を引かれる思いで孤児院を後にした。
怒涛のような一ヶ月が過ぎ――
次に待っていたのは、クラリスとイザーク、ライナルトの三人に関わる“家族同士の正式な顔合わせ”だった。王命に関わる機密性の高い婚約ゆえに、王城内の迎賓室にて、三家族合同での場が設けられた。
まずイザーク側の家族は、彼の一人息子であるルカ・ローヴェンハーツが出席していた。イザークの両親はすでに他界しており、兄弟もいなかった彼にとって、ルカが唯一の家族だった。ルカは現在、王城の財務部で文官として働いており、父譲りの冷静沈着な性格ながら、どこか柔らかな気配りも備えた青年だった。
「父の決断はいつも唐突で……けれど今回は、感情が良く出る様になり本当に幸せそうで安心しました。クラリス様、どうか父をよろしくお願いいたします」
ライナルト側の家族は、当主である父母は健在ながら、侯爵家として北辺の防衛を担っていること、さらに母親が長らく療養中であることから今回は不参加となった。その代わりに出席したのが、姉のマティア・レーヴェンとその夫である軍医のセバス・レーヴェン、そしてライナルトの息子たち――
長男のヴォルフラム・バークレーは、クラリスの長兄アデルと同じく、王立第一騎士団の所属であり、アデルの直属の先輩にあたる。
「まさか義母が自分より年下で、アデルが親族になる日が来るとは……複雑ですがよろしくお願いします。うちの父は、ぶっきらぼうですが、悪い人間じゃないです」
そして次男のカイル・バークレー――
クラリスにとっては、かつて階段から突き落とされ、のちに謝罪と和解したという過去を持つ相手だった。今では学園で父の事を聞いて以来、婚約者との仲が改善され今では良き関係が築けているお陰で、彼もまた今日は真剣な面持ちで頭を下げた。
「クラリス嬢には、かつて大変な無礼をした……後輩である君が義母になるのは複雑だが、家族になれることに、父の幸せに感謝しております」
そして、クラリスの家族――エルバーデ伯爵家からは、父カミロと母レティシア、長兄アデル、次兄レオナルド、三男エリオットが同席していた。アデルとヴォルフラムの間には同じ騎士団としての信頼があり、和やかに挨拶を交わしていた。
こうして集った三家族。重たい責務の話も、笑いを交えた家族間のやりとりも、全てが真剣で、あたたかかった。
クラリスはその中心で静かに息を整え、目を閉じた。
――わたくしは、もう一人ではない。どれほど制約があっても、この絆があれば、きっと未来へ進んでいける。
そう心に誓い、クラリスは両手を膝に置き、深く頭を下げた。
「本日はお集まりくださり、誠にありがとうございました。これより皆様と共に、国に仕える一人として、また家族の一員として、誠実に歩んで行けたらと思っております。」
その言葉に、場の誰もが静かに頷いた。、
まず最初に訪れたのは王立学園。クラリスは学園長と各担当教員に呼び出され、飛び級試験の実施と卒業の見通しについて説明を受けた。クラリスは、王命により半年後には卒業し、婚姻を行う予定であること、その後は王城付きの役職に就くことが決まっている旨を、丁寧に伝えた。
「……急な話で、私たちも驚いていますが……どうか無理をなさらずに」
教員のひとりがそう声をかけてくれたが、クラリスはしっかりと頷いた。
「ありがとうございます。皆様のおかげでここまで学びを深めることができました。これからも精進いたします」
別れの時ではなかったが、それでも部屋を出る時には、胸の奥にじんと熱いものが込み上げた。
次に足を運んだのは、王立第一騎士団の医療班だった。ライナルト団長とイザーク団長の同席のもと、クラリスは静かに言葉を紡いだ。
「……これまで治癒士見習いとしてお世話になりましたが、王命により今後は治癒行為を王城内のみで行うよう命じられました。そのため、皆様と共に活動することができなくなりました」
医療班の者たちは驚いた表情を浮かべながらも、すぐに何があったか理解を示し、言葉少なに頷いてくれた。
「……事情は察しました。これから大変でしょうが、ご武運を」
「ありがとうございます。皆様のおかげで、わたくしは多くを学ぶことができました。どうか……お身体に気をつけて下さいませ」
医療班の隊員たちのまなざしは、どこか寂しげで、けれど温かかった。
帰り際、重傷者の建物の前に連れて来て貰い、深いカーテシーを暫くの間していた。それはクラリスの感謝の祈りのようだった。
続いてクラリスが訪れたのは、魔法師団の厩舎だった。そこには――ホワイトグリフォンの“ポンちゃん”が待っていた。ブルーの瞳と、全身真っ白な毛でしっぽを揺らして近づいてくる姿に、思わず頬が緩む。
「ポンちゃん……あなたに会う時間も少なくなっちゃうの」
ポンちゃんは鼻先をすり寄せてきて、まるでその意味を理解しているかのように、ぴたりと寄り添った。
イザークの計らいにより、ポンちゃん専用の厩舎が彼の私邸の敷地内に新設されることが決まっていた。クラリスは、今後は王城での暮らしが中心になるが、定期的にイザークの邸宅に足を運び、ポンちゃんと過ごす時間を確保することになった。
「もう、なかなか会いに来られないけれど……ちゃんとまた来るからね」
手綱をそっと撫でながら、彼女はポンちゃんにそう約束した。
そして最後に訪れたのは、週に一度の訪問を欠かさなかった孤児院――《ミラノの陽だまり》だった。
陽だまりのような笑顔で迎えてくれる子どもたちの姿が、何よりの癒しであったクラリスにとって、この別れが一番つらかった。事情を話し終えると、年長の子たちはすぐに理解を示してくれたが、小さな子たちは「やだ! くらりすおねえちゃん、いっちゃやだ!」と泣きながら抱きついてきた。
「ごめんね……ごめんなさい。でも、皆のこと、ずっとずっと大好きです」
そう言って、子どもたち一人ひとりを抱きしめ、名残惜しそうに手を振りながら、クラリスは後ろ髪を引かれる思いで孤児院を後にした。
怒涛のような一ヶ月が過ぎ――
次に待っていたのは、クラリスとイザーク、ライナルトの三人に関わる“家族同士の正式な顔合わせ”だった。王命に関わる機密性の高い婚約ゆえに、王城内の迎賓室にて、三家族合同での場が設けられた。
まずイザーク側の家族は、彼の一人息子であるルカ・ローヴェンハーツが出席していた。イザークの両親はすでに他界しており、兄弟もいなかった彼にとって、ルカが唯一の家族だった。ルカは現在、王城の財務部で文官として働いており、父譲りの冷静沈着な性格ながら、どこか柔らかな気配りも備えた青年だった。
「父の決断はいつも唐突で……けれど今回は、感情が良く出る様になり本当に幸せそうで安心しました。クラリス様、どうか父をよろしくお願いいたします」
ライナルト側の家族は、当主である父母は健在ながら、侯爵家として北辺の防衛を担っていること、さらに母親が長らく療養中であることから今回は不参加となった。その代わりに出席したのが、姉のマティア・レーヴェンとその夫である軍医のセバス・レーヴェン、そしてライナルトの息子たち――
長男のヴォルフラム・バークレーは、クラリスの長兄アデルと同じく、王立第一騎士団の所属であり、アデルの直属の先輩にあたる。
「まさか義母が自分より年下で、アデルが親族になる日が来るとは……複雑ですがよろしくお願いします。うちの父は、ぶっきらぼうですが、悪い人間じゃないです」
そして次男のカイル・バークレー――
クラリスにとっては、かつて階段から突き落とされ、のちに謝罪と和解したという過去を持つ相手だった。今では学園で父の事を聞いて以来、婚約者との仲が改善され今では良き関係が築けているお陰で、彼もまた今日は真剣な面持ちで頭を下げた。
「クラリス嬢には、かつて大変な無礼をした……後輩である君が義母になるのは複雑だが、家族になれることに、父の幸せに感謝しております」
そして、クラリスの家族――エルバーデ伯爵家からは、父カミロと母レティシア、長兄アデル、次兄レオナルド、三男エリオットが同席していた。アデルとヴォルフラムの間には同じ騎士団としての信頼があり、和やかに挨拶を交わしていた。
こうして集った三家族。重たい責務の話も、笑いを交えた家族間のやりとりも、全てが真剣で、あたたかかった。
クラリスはその中心で静かに息を整え、目を閉じた。
――わたくしは、もう一人ではない。どれほど制約があっても、この絆があれば、きっと未来へ進んでいける。
そう心に誓い、クラリスは両手を膝に置き、深く頭を下げた。
「本日はお集まりくださり、誠にありがとうございました。これより皆様と共に、国に仕える一人として、また家族の一員として、誠実に歩んで行けたらと思っております。」
その言葉に、場の誰もが静かに頷いた。、
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