痛がり

白い靴下の猫

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24.ごめん、信用できない

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狭い双発機の中で、馬鹿みたいに通信電波が飛び交っていたと思う。
メイは、優の学校の卒業生人脈を駆使しまくってゼルダとシューバの様子を探ろうとしたし、さとるはノウハウ箇所を特定しながらますみと連絡を取ろうとしたし、あかりは操縦しながら敦子と契約ドラフトを相談し、間を縫ってさとるとメイからティールが喰いやすいネタのレクチャーを受けた。

「だめだ。ますみのスマホ通じない。既にホゴラシュを出ているし、もうティールの中かな。他人の会社入るときはスマホ預けさせられるもんな」
「了解。優が教えていた女生徒って紹介だし1人増える位ごまかせるから追いかけてみる。ネタアピールはできたらするけど、基本2人の回収優先でいくね。逃走準備と経路確保してもらってもいい?」
「わーった」
あかりは、何の変哲もない乾き気味な畑の畔に機体を降ろし、そのまま納屋に滑り込ませた。ここも優の補給倉庫だ。管制区域の外なので出入り自由なのは助かるが、ますみたちのいる都市部まで車で1時間以上の距離があく。
時間が惜しい。
情報もとりたいし、燃料も補給しなければならないし、車の予備も配置したい。
二手に分かれることにして、都市部に近づき車の量が増加するや、タクシーを車追って捕まえて乗り込むという荒業で、あかりは資料やサンプルをごっちゃり持って、ティールの支社に向かった。


ほ、間に合った。
あかりが追加の資料を持ってきたと取りついてもらうと、あっさりとますみたちのプレゼン会場に案内された。
やってるやってる。
埋蔵地帯や埋蔵量、採掘方法に至るまで、ますみの説明は淀みない。
もとから年上に絶大な引きを持つタイプだ。女装ぐらいじゃその引きは曇るまい。心配はしていなかった。
問題は。
希土類を加工していくサシャのほうだ。
顔色が悪く、唇を真一文字に結んでいるサシャを見て、あかりはため息をつく。
ごめん、信用できない。
サシャがオートクレーブに置いた加工済み希土類をチェックさせてもらう。わざとか、ずいぶんと加工が粗い。あかりは、サシャが加工した希土類をすでに出来上がっている磁性体とすり替えた。
それからぐるりと周りを見渡して。
ほかにも、なんかやったな。

営業チームの人間はともかく、技術チームの人間に、なんか舐められてる感じがする。
技術に明るくないフリでもしたのか。ホゴラシュの女性特有の謙遜でもかましたか。
これは多分ちょっと軌道修正して帰った方がいいよね。
あかりは、敦子から送られたばかりの代替契約書案をもって残ることにした。
本当は目を離したくないのだけれども、やむを得ない。
ますみに耳打ちをする。
「危ない脅迫状が来たから迎えに来たの。さとるたちに護衛してもらいながら帰るから、このビルのガードマンの守備範囲から出ないで待っていてね」
ものすごく美人になってしまったますみである。
下手したら別の勢力に誘拐されかねないし、安全第一でいきたいところだ。


一方、サシャは、ますみを、優を、自分で一杯に満たす夢をよく見るようになっていた。
自分の平常心がぎりぎりなのが自覚できる。

メイに邪魔されたくないし、ますみを危険な目に晒すことも耐えられない。
それなのに、現実ではどんどん危険度が増していくのだ。

どっちから見ても危険を呼ぶメイを、1日でも早くますみから遠ざけたいのに。

サシャの感覚では、すでに感受できる危険レベルは超えているし、正直、メイの読みは甘いと思う。
タキュ人とキュニ人の紛争は何十年も続いているけれど、その間何度かは、緊張関係がましになったり、融和を試みたりした時期がある。
そのたびに、いわゆる良い家柄のもの同士が、タキュ人とキュニ人の壁を越えて婚姻関係を結んだ。政治的な思惑から婚姻した程度で大抵うまくはいかないが、何度もそんなイベントがあると、その良い家柄には他民族とのツテができる。
サシャは、タキュ人中の良い家の出、だ。
そのツテから、ききたくない情報が入ってくる。
ホゴラシュの新しい宝になる希土類を海外に流出させないために、力を合わせて研究結果を奪おう、流出させそうな奴を潰そう、そんなコンセプトで、キュニ人とタキュ人の武装勢力が手を組むことにした、と。
優が不可解な挟撃でとらわれた時と、同じように。
勝てるとは思えない。優ですら、負けたのだ。

今のサシャにとって、何があっても守るべきなのは、ますみ。
そのために必要ならば、メイでもさとるでも、もちろん自分でも、売るし、切る。

現状、武装勢力を最も挑発しているのはさとるで、悔しいことに完全なノウハウパーツなのはメイ、不完全なノウハウパーツがさとるとサシャだ。
それでも、激しい戦闘に巻き込まれたら、最も死ぬ可能性が高いのは、間違いなくますみだと思う。
戦闘能力が違い過ぎる。
それがわかっていながら戦端を拡大し続けるメイとさとるは、サシャから見れば、ほとんど戦闘狂だ。
それを煽る畑里あかりと神崎敦子も正気とは思えない。

メイではなくサシャが完全なノウハウパーツだったなら。
希土類を強磁性体にかえるノウハウを持つだけでなく。
メタマテリアルとして、磁力の発生・消失から、起こす場所、強弱に方向に、ナノオーダーでの操作まで、自在に設計するための鍵だったなら。
もっと簡単にますみを守ることができた。
ゼルダに独占権を与えて、その見返りに屋敷を庇護させればいいのだ。
ゼルダを怒らせたら、どの勢力だろうが外貨を手にできなくなる。資金供給を絶たれたくなければ、タキュ人もキュニ人もいうことを聞くしかない。
屋敷の安全を確保するだけでなく、武器のへの転用ノウハウを小出しにして武装勢力同士につぶし合いをさせることだって、外資企業をホゴラシュの下請けにすることだって夢ではない。
それなのに。
メイはその方法をとらないし、さとる達もゼルダ以外と取引しようと考える。

外資の多国籍企業とのパートナーシップにこだわるなら、ますみを日本に返してから勝手にすればいいのに、彼らにますみを手放す気はない。
ますみの地質や鉱物系の知識がすごいからだ。
ますみがいなければ、埋蔵量の推定も、鉱床分布の推定も、地層にかかっている応力の計算もできない。
副産物の中から売れるものと売れないものを分けるのも、有利な金額で取引する方法もますみ頼りだからだ。

戦闘能力の問題だけでなく、持っている情報から考えた時にも、ますみの生存確率は低い。
サシャの情報にも、ますみの情報にも、金銭的にはとても大きな価値があるが、代替性があるとバレれば殺されない理由にはならないから。
それに比べて。
内戦国の武装勢力にとって、対抗手段のない兵器を自分達だけがもつ機会とは、どれほどのチャンスだろうか。
そのチャンスは、金で買えず、殺しても奪えないものだからこそ、人を動かす。

絶対兵器。そこに続く情報を持つメイやさとるに比べたら、サシャやますみの価値は軽い。ほんのわずかな手がかりと引き換えにでも簡単に殺せてしまうほどに。

ますみを逃がせるとすれば、誰がどのノウハウパーツなのかが敵にバレていない今だけだ。
サシャに、完全なノウハウパーツのフリができるのも、敵に、メタマテリアルの設計ノウハウと希土類の初期加工ノウハウの区別がついていない今だけ。

もう、一刻も待てない。
ティールとの取引を失敗させることを条件に、ゼルダにますみを保護させて出国させる。
サシャは腹を決めた。

サーファ・デジュがサシャに付けた見張りは、ゼルダの社員だったから、話を持ち掛けることはとても簡単だった。
もちろん、ティールとの取引を失敗させるのも簡単だ。自分が失敗して、採掘した希土類が粗悪な磁性体にしかならなければそれでいい。
逃げ込んだゼルダで成功させれば、ますみとサシャは保護してもらえるし、この特殊な希土類が海外資本に流れることを嫌っているサーファたちからの攻撃も減る。
最悪でも、サシャが完全なノウハウパーツのふりをしている間に、ますみを出国させてしまえばいい。

逆に言うと、ティールとの取引が進むことになれば、ホゴラシュの国内勢力が黙ってはいない。優さんがいる時ですらあんなに苦戦したのだ。メイとサシャで持ちこたえられるはずがないし、持ちこたえられなければ、ますみが死ぬ。
それだけは絶対に避けてみせる。


サシャに嫌な予感がせりあがる。
あかりが追ってくるなんて。
せっかくティールが買いたたきたくなるようなトラップをたくさんちりばめてきたというのに。
畑里あかり。
しゃべり方が優さんと似ていて、多分、年齢からは信じられない程交渉に慣れているのがわかる。
ダメだ、巻き返される。

この場でティールとの関係悪化にまで持ち込むのはあきらめて、先にゼルダに駆け込むべきだ。
そう判断したサシャは、自分のほほ笑みがこわばっていないか確認しながらますみに歩み寄った。

「ますみさん」
「なぁに、サシャ」
いつものように、とても優しい顔で、ますみは振り返る。
「国外が、珍しいので、デートに行きたいです」
「ん、いいけど、今日は頑張ったし、疲れてない?」
「はい!」
「じゃ、あかりさんが出て来次第頼んで・・・」
「さ、三十分でいいのでふたりでデートしたいです!遠出が危険なら、隣のコンビニというところだけでも行ってみたいです。この建物から出ればスマホ返してもらえるし、はぐれないと思うのですがっ」
ガラス張りのロビーからは確かにコンビニが見降ろせる。流石中央アジアのモデル国。地下資源でお金持ちになったあとも発展を続けているこの国を、サシャが体験してみたがるのはわかる気がした。
「コンビニ、だけ行ってすぐ帰ってこようか?総合ロビーのほうもガードマンさん大量にいたし」
「はい!手荷物もらってきます!」
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