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50. 母奇特

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手紙など届くはずもない生き方をしている自覚がある分、ミケは、自分宛てに届いた手紙に呆然となった。

ルカが、持って来たのだ。
素顔のまま届けに来るルカもルカなら、通したパチドもどうかしている。

ルカは、新生フェルニアの要で、魔素の中を歩ける稀少人材で、戦時中の軍神で、パチドから脱走していて。要するにムーガルからみれば、最高級賞金首だと思う。

それが、いるはずのない王都にいて、ムーガル軍のNo2の屋敷に、単身正面玄関からノックして、入って来るとか!

パチドは仏頂面のまま、お前が話したいだろうから、客扱いしてやると言い、特にどこに連絡するでもなく、使用人には昔の知り合いだと言ってルカを通させた。
こんな大物が訪ねて来たのに、黙殺?!黙殺する気なの?!

ギギギギ

我ながらおかしな軋み音がしそうな動きで、ルカから手紙を受け取る。

封筒にルカの気配と、魔の森の気配。
これは、まだ、わかる。
こんなことが出来るのも、してくれる気があるのも、この子だけだろう。

だが、中からこぼれてくるのは、忘れようもなく、懐かしくて、無条件にミケの涙腺を決壊させる、チャドとフロラインの気配で。

涙がこぼれて、濡らしてしまいそうで。
手が震えて、ちぎってしまいそうで。
それでも早く開けなければ、消えてしまいそうで。

はやる気持ちを抑えながら、必死で丁寧に封を開けて、便箋を開く。

『 母、奇特、カネよこせ。
 チャド・フロライン 』

ぶーっ。
涙も引っ込む間抜けな文章に目が点になる。

危篤じゃなくて、奇特?
チャド・フロラインって、チャドさん?フロライン?

それより、いきているの?いきているの?いきているの?
この手紙が書かれたのはいつ?!

パニック寸前なのに、頭の中に浮かんでくるのは、フロラインが両手をワキワキさせながらいたずらっ子そのものの顔をしているところで。

慌てなくていいと、泣いていないかと、元気ならたずねておいでと。そんな思いが込められた手紙だった。
便箋を胸に抱いたら、柔らかく、温かく、6年前に包まれていた空気そのままのような優しさがあふれ出て、ミケを抱きしめた。

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