手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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やり直し

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晩御飯は、お祝いだった。
サシャとますみさんご夫婦に子どもができたから。
その光景は、メイがこれまで見たホゴラシュの夫婦のものとは全然違っていて。
男女もわからないうちから、皆がおめでとうという。
なにより、みんな赤ちゃんは普通生まれるもの、と思っているのだ。
マッドさんは、赤ちゃんと言うにはあまりに小さな豆粒が、とくんとくんいっている映像を見せてくれて、心臓だと言った。

サシャ、すごいなぁ。
ますみさんは、サシャのご両親に持っていくための、たくさんの手土産を用意中。車いっぱいに、食べ物やアクセサリーや服なんかのプレゼントを入れて、車ごとわたしてくるんだって。

流石にサシャみたいないい家でも、驚くだろうな。
それで、赤ちゃんは、9カ月もみんなに首を長くして待たれて、無事に産まれたらきっと、両親そろってやわらかい服を着せて、可愛がって、ほめて、飢えからも恐怖からも自由に育てるんだ。優さんみたいに。

それはもう、自分とは種として別だと思う。

卵管カットと引換えに義弟を選ぶことが、『そういう』子どもをもつ機会を手放すことだと理解できなかった自分とは。
あんなに優しくされたさとるさんにさえ、水没させられると思ってしまう自分とは。

ぼひゃっとしていると、いつの間にかさとるさんが隣に座っていた。
目が合うと、肩を抱いてくれる。
「どした?」

「さとるさん達にとっての、赤ちゃんって、こういうものなんですねぇ。ちょっとカルチャーショックしていました。でも、サシャはもう馴染んでいて、すごいなぁ、って」

「メイも、あと何年かしたら、産んでくれたりしない?」
「私が・・・その、さとるさん達が思う赤ちゃんを産むのは、どうなんでしょう?想像できないと言うか・・」
「??ごめん、どこら辺に疑問形や否定形がかかっているのか、よくわからない」

「ほら、よく、多産多死とか、少産少死、とかいうでしょう?あれ、種族によってきまってるじゃないですか。私、赤ちゃん側から見ると、さとるさんと同種族じゃないかもって」

私は自分の断種を決めた時に、さとるさんと同種族になるチャンスを捨てたのだと思う。
でも、今は『まだ』だから。
未来のさとるさんの子の、私ではないお母さんの。そんな話はしない。

さとるがため息をつく。
「へこんだぞぉ。どうなったら、同種族って、信じられる?」
「えー?んーと、どうなんでしょうか。私が、くてんくてんの粘菌みたいになって、さとるさんにべたぁってくっついて、同化しちゃうとか?」

本当にそうなれたら、いいのになぁ。
ずっと一緒なのが当たり前で。最後を、心配する必要もなく。

「同化?!菌類の細胞融合とか疑似有性生殖の話!?また、すごい所からネタ持って来たな。わかった、粘菌プレイ(?)受けて立つ!夜になったら初めからやろうって約束したもんな」

へ?受けて立っていただくような話では・・・って、そもそも粘菌ってどうやるのです?

答え。泡風呂で散々はしゃいで、お酒飲みながらしました。



うー、離れたほうがいいよね。エッチし終わったしさ。
終わった後は、男の人はくっつかれるのを嫌がるって聞いた。
いつもは私の方が体力の回復が遅いから、寝かされちゃったり世話を焼かれたりで、直後に主体的に動いた記憶ってあまりない。

じゃぁ、はなれればって、頭のどこかが言うのに。
ぜんぜんだめ。
我慢できずに、さとるさんにべたぁっとくっついてしまう。

先にさとるさんの手をおさえてから言う。
「手で、邪魔、ってしないでくれますか」
「しませんよぉ」

「直後にくっつくの禁止?」
「我が家にそんなルールはありません。どこかの非モテに聞いたとかなら無視しましょう」

「菌類の恋愛ってどんな?友人居ます?」
「性別が何千もあるような遠い種族に友人は居ません。ついでに俺はサボテンの友人もいないからな」

「さとるさんは、ほんとにいつも返事をしてくれますねぇ」
「当たり前だ。メイも返事返せよ?10年後も、20年後も、ちゃんとだぞ」

10年、後?私、の?
ばたばたばた
あ、半泣きじゃなくて、全泣きクラスの涙の粒になってしまった。

ひっつく、ひたすらさとるさんにひっつく。
このまま、さとるさんのホクロの一つになって10年も20年も一緒に過ごしたい。
さとるさんの手首の内側にホクロを見つけて、何度もそこにキスをした。

・・・ケーキのお酒の匂いがする。

そして抱きしめられたまま、眠った。

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