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凌の声は、怒っているというよりは悲しげだった。こんなに悲しい声を高校一年の男子が出せるとは思えないくらい、悲しい声。
「金なら、この前俺のバイト代抜いただろ。……もう使ったの? ホスト? パチンコ? ……どっちでもいいけど、とにかくあかりの制服だけは……。」
会話の相手は、多分母親なのだろう。俺はますます身を縮めた。凌がわざわざこんなこんなところまで来て電話をしているのだから、話しをひとに聞かれたくないのだろう。紡がれる言葉の内容からもそれが分かって、俺は小さくなるしかなかった。
「俺も金ないよ。バイト代の前借なんて、もうできない……。とにかく、また借りに行くしかないだろ。嫌な顔されても、それしかない。家の中の金かき集めといてよ。ちょっとでも、返そうとする誠意くらい見せないと、叔母さんだってもう貸したくないんだから……。」
じゃあ、と、短く言って、凌は電話を切った。そして、俺の方へ視線をやって、ごめん、と言った。
「ごめん、中田。出て来ていいよ。」
煙草を右手に、魚肉ソーセージを左手に壁にめり込んでいた俺は、ぎょっとしながらじわじわ壁から身体を離した。いつから気づかれていたのか、自分が間抜けすぎて、笑えもしなかった。
「煙、見えて。」
凌はそう言って、少し笑った。顔にはまだ、悲しげな匂いが張り付いていた。あまりに悲しい思いをしたから、まだその気配が抜けきらないみたいに。
「……聞く気は、なかった。」
「分かってるよ。」
「……ごめん。」
「いいんだ。」
笑ったまま凌が首を振る。この学校では珍しい黒髪が、ごく薄い日差しに鈍く光る。その光を見ながら、俺は左手に持っていた魚肉ソーセージを凌に差し出していた。なんでそんなことをしたのかは、自分でもよく分からない。ただ咄嗟の行動だった。目の前の人間が、あまりの悲しみに打ちひしがれている。高校一年のバカなガキだった俺には全然経験のないことで、どう対処していいのか分からなかったのだ。
「……さすがに、ひもじくはないよ。」
凌は笑みを深くし、そして、そのままの顔で泣いた。ひとが泣くのなんて見るのは、いつぶりだろうかと思った。多分、小学生の頃の、女子の喧嘩以来だったかもしれない。そして俺は、こんなふうに笑いながら泣く人間を見るのははじめてだった。
「金なら、この前俺のバイト代抜いただろ。……もう使ったの? ホスト? パチンコ? ……どっちでもいいけど、とにかくあかりの制服だけは……。」
会話の相手は、多分母親なのだろう。俺はますます身を縮めた。凌がわざわざこんなこんなところまで来て電話をしているのだから、話しをひとに聞かれたくないのだろう。紡がれる言葉の内容からもそれが分かって、俺は小さくなるしかなかった。
「俺も金ないよ。バイト代の前借なんて、もうできない……。とにかく、また借りに行くしかないだろ。嫌な顔されても、それしかない。家の中の金かき集めといてよ。ちょっとでも、返そうとする誠意くらい見せないと、叔母さんだってもう貸したくないんだから……。」
じゃあ、と、短く言って、凌は電話を切った。そして、俺の方へ視線をやって、ごめん、と言った。
「ごめん、中田。出て来ていいよ。」
煙草を右手に、魚肉ソーセージを左手に壁にめり込んでいた俺は、ぎょっとしながらじわじわ壁から身体を離した。いつから気づかれていたのか、自分が間抜けすぎて、笑えもしなかった。
「煙、見えて。」
凌はそう言って、少し笑った。顔にはまだ、悲しげな匂いが張り付いていた。あまりに悲しい思いをしたから、まだその気配が抜けきらないみたいに。
「……聞く気は、なかった。」
「分かってるよ。」
「……ごめん。」
「いいんだ。」
笑ったまま凌が首を振る。この学校では珍しい黒髪が、ごく薄い日差しに鈍く光る。その光を見ながら、俺は左手に持っていた魚肉ソーセージを凌に差し出していた。なんでそんなことをしたのかは、自分でもよく分からない。ただ咄嗟の行動だった。目の前の人間が、あまりの悲しみに打ちひしがれている。高校一年のバカなガキだった俺には全然経験のないことで、どう対処していいのか分からなかったのだ。
「……さすがに、ひもじくはないよ。」
凌は笑みを深くし、そして、そのままの顔で泣いた。ひとが泣くのなんて見るのは、いつぶりだろうかと思った。多分、小学生の頃の、女子の喧嘩以来だったかもしれない。そして俺は、こんなふうに笑いながら泣く人間を見るのははじめてだった。
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