コンビニ行ってくるけど

美里

文字の大きさ
3 / 31

しおりを挟む
 凌の声は、怒っているというよりは悲しげだった。こんなに悲しい声を高校一年の男子が出せるとは思えないくらい、悲しい声。
 「金なら、この前俺のバイト代抜いただろ。……もう使ったの? ホスト? パチンコ? ……どっちでもいいけど、とにかくあかりの制服だけは……。」
 会話の相手は、多分母親なのだろう。俺はますます身を縮めた。凌がわざわざこんなこんなところまで来て電話をしているのだから、話しをひとに聞かれたくないのだろう。紡がれる言葉の内容からもそれが分かって、俺は小さくなるしかなかった。
 「俺も金ないよ。バイト代の前借なんて、もうできない……。とにかく、また借りに行くしかないだろ。嫌な顔されても、それしかない。家の中の金かき集めといてよ。ちょっとでも、返そうとする誠意くらい見せないと、叔母さんだってもう貸したくないんだから……。」
 じゃあ、と、短く言って、凌は電話を切った。そして、俺の方へ視線をやって、ごめん、と言った。
 「ごめん、中田。出て来ていいよ。」
 煙草を右手に、魚肉ソーセージを左手に壁にめり込んでいた俺は、ぎょっとしながらじわじわ壁から身体を離した。いつから気づかれていたのか、自分が間抜けすぎて、笑えもしなかった。
 「煙、見えて。」
 凌はそう言って、少し笑った。顔にはまだ、悲しげな匂いが張り付いていた。あまりに悲しい思いをしたから、まだその気配が抜けきらないみたいに。
 「……聞く気は、なかった。」
 「分かってるよ。」
 「……ごめん。」
 「いいんだ。」
 笑ったまま凌が首を振る。この学校では珍しい黒髪が、ごく薄い日差しに鈍く光る。その光を見ながら、俺は左手に持っていた魚肉ソーセージを凌に差し出していた。なんでそんなことをしたのかは、自分でもよく分からない。ただ咄嗟の行動だった。目の前の人間が、あまりの悲しみに打ちひしがれている。高校一年のバカなガキだった俺には全然経験のないことで、どう対処していいのか分からなかったのだ。
 「……さすがに、ひもじくはないよ。」
 凌は笑みを深くし、そして、そのままの顔で泣いた。ひとが泣くのなんて見るのは、いつぶりだろうかと思った。多分、小学生の頃の、女子の喧嘩以来だったかもしれない。そして俺は、こんなふうに笑いながら泣く人間を見るのははじめてだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました

あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」 誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け ⚠️攻めの元カノが出て来ます。 ⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。 ⚠️細かいことが気になる人には向いてません。 合わないと感じた方は自衛をお願いします。 受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。 攻め:進藤郁也 受け:天野翔 ※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。 ※タグは定期的に整理します。 ※批判・中傷コメントはご遠慮ください。

処理中です...