コンビニ行ってくるけど

美里

文字の大きさ
5 / 31

しおりを挟む
 凌が中退した後も、俺はよく授業をさぼっては校舎裏で煙草を吸っていた。凌を懐かしんでとか、そんなことではなかった。懐かしむほど俺は凌を知らなかった。ただ、もしかしたら来ないかな、と、思ったこともあった。来ないとは分かっていたけれど、冷たい北風に煙草を挟んだ指が凍える午後や、あまりに暑すぎて煙草を吸う気もおきない夕方なんかに。
 それから二年弱、変わり映えのしない日々を過ごし、俺は担任の恩情でなんとか高校を卒業し、東京のバカ大に進学した。特に学びたいことがあったわけではない。なにかを学びたいと思ったことがそもそも俺にはない。ただ俺は、時間がほしかった。まだ、自分の人生というか、将来というか、そういうものをぼんやりさせておきたかったのだ。俺の人生も将来も、そう大層なものにはならないと自覚はしていたけれど。東京に出たことにも、大して理由はなかった。地元の大学は俺の頭のレベル的に受からなかったという、それだけの話。同じように上京する道を選んだ同級生には、東京での新しい生活に目を輝かせているやつもいたけれど、俺はそんな気にもなれずにいた。あんなに真面目に授業を受けて、ノートもごく丁寧にとっていた凌が高校中退になって、これ以上はないと言うくらい不真面目に高校生活を過ごしていた俺が大学進学する。その不条理さになんとなく腹が立ったりはした。腹が立ったところで、俺になにができるわけでもない。俺の家庭はそれなりに裕福で、バイト代を親に巻き上げられたことは一度もなかった。
 大学は、頭が悪すぎて一年留年したけど、なんとか卒業できた。その五年間で、男とどうこうなったことは一度もない。性的な誘いを受けたことは何度かあった。ひとりで飲んでいるときに、隣に座った男に太ももに手を置かれたこともあったし、語学クラスで一緒になった男に真正面から口説かれたこともある。それでも俺は、その男たちとどうこうなりはしなかった。大学を卒業して数年たった後、家に転がり込んできた凌と寝るまで、俺は男と寝たことはなかったのだ。おんなとは寝たりもしたけれど、付き合うだとかそういう類の話は避けてきた。上手く言えないけれど、自分には向かないと思った。その感覚は今でも変わっていない。そのせいで凌が出て行ったのかもしれないと、ぼんやり思いもする。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...