コンビニ行ってくるけど

美里

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 大学在学中も、卒業して就職してからも、凌と連絡を取ることはなかった。全然動いてはいないけれど、高校一年のときのクラスラインはまだ生きていたから、その気になれば連絡をつけることはできた。だからつまり、俺はその気にならなかったのだ。凌からだって連絡はなかったのだから、やっぱり向こうも、その気にならなかったんだと思う。
 就職は東京でした。地元に帰らなかった理由も特にない。普通に田舎なので就職先がなかったし、特別帰りたいと思うこともなかった。同じような理由で、帰省もほとんどしなかった。大学生活を通じて三回くらい。就職してからは帰っていない。母親からは、時々電話がある。元気にしているかとか、飯は食っているかとか、少しでも顔を出す気はないかとか、そんな電話だ。電話は、毎回出るようにしている。ひとり息子だし、それくらいは義務だと思う。こちらから電話をしたことはないけれど、それにも特に、理由なんかない。
 東京で就職をすると、人間関係の希薄さに俺は随分救われた気がした。会社の人間と私的な付き合いはしなかったし、そうなると東京に俺のことを知っているやつなんかほとんどいない。それは、楽だった。いつからか俺は、煙草を吸わなくなった。多分、吸う必要もなくなったのだ。そうすることで、自分の意思とか個性みたいなものが、更に薄まった気がした。それもなんだか気が楽になった。俺はあんまり、存在したくなかったのかもしれない。どこにも。誰の中にも。
 そうやって、職場と家の往復で時間を消費していた。休みの日なんかはただ寝ているだけで終わった。その途中で、凌が転がり込んできた。
 あれは、冬のはじめ。金曜日の夜中、そろそろ寝ようかなと思いつつぼんやりテレビの興味もないニュースを眺めていると、目の前のテーブルに投げ出していたスマホが鳴った。俺ははじめ、母親からの電話だと思った。それ以外に俺に電話をかけてくるやつなんかいなかったからだ。
 けれど、スマホをとりあげて画面を見てみると、そこには『公衆電話』と表示されていた。公衆電話? 俺は首を傾げたけれど、電話を取った。そのときすでに、予感はあったのかもしれない。電話を取る一瞬前、俺の頭には、ぷるぷる揺れながら凌の唇に吸い込まれていった魚肉ソーセージの絵が浮かんでいた。ひどく遠い光景が、くっきりと。そう思うとなんだか、俺は電話を取る前にはもう、凌と寝たかったような気もするのだ。少なくとも、凌と寝ることになるような気配を感じながら電話を取ったような。
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