コンビニ行ってくるけど

美里

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 新宿東口。こんな寒い夜なのに、金曜だからだろう、ひとがごった返していた。電話が切れてから20分。凌はまだ、ここにいるのだろうか。それすら分からないまま、俺は電車を降り、東口へ歩き、凌を捜した。
 なんで凌は、俺に電話をしてきたのだろう。10年近く会っていなかったし、その前だって、特別親しかったわけじゃない。校舎裏に凌が顔を出していたのは、ほんのひと月くらいの間だった。俺はあの頃、常に不機嫌だったし、話しかけてくる凌を適当にあしらってばかりいた。そんな俺に、なぜ。
 その答えが出る前に、凌を見つけた。東口を出てすぐ、植え込みに腰を引っかけるみたいにして、紺のパーカー姿の凌が立っていた。染めていない黒い髪と、ピアス一つ開いていない耳朶。元から白かった肌が、寒いせいか蒼白に見えた。ひとごみにあっさり埋もれてしまいそうなその特徴の少ない立ち姿が、俺にはなぜか、くっきりと目に飛び込んできたのだ。
 「……凌。」
 そのときの気分を一言で言うと、泣きたかった。理由は今でも分からない。それでも俺は、自分の声が揺れていて、目のずっと奥の方ではあるけれど、しんわりと熱く、涙の塊みたいなものが込み上げて来ているのを感じていた。
 「金髪じゃない。」
 目の前に立って、肩で息をする俺を見て、凌は少し驚いたみたいにそう言った。
 「当たり前だろ。幾つだと思ってんだ。」
 「そうだよねー。」
 くすりと、凌が笑う。あの頃よく見た凌の笑い方だった。
 「煙草は? 吸うの?」
 「……吸うよ。」
 そのとき俺は、なぜだか嘘をついた。吸わないよ、と言えなかった。凌は高校時代からまるで変っていないみたいに見えるのに、俺だけ変わってしまったみたいで嫌だったのかもしれない。それとも、あの頃みたいになにもかもに抵抗する気力もなくし、存在を希薄にする方法ばかり身に着けた自分を、凌には見られたくなかったのかもしれない。
 「そっかー。」
 凌が、震えながら笑うので、俺はその薄い肩にコートをかけた。なんでこんな薄着で、中身がろくに入っていないのが一目でわかるぺしゃんこのボストンバッグ一つを足下に投げ出して、こんな夜にこんなところにいるのか。
 俺のコートの襟もとを指先で合わせながら、凌は大きな目で俺の顔を覗き込んだ。
 「出るんだね。公衆電話からの着信。」
 「……出るよ。」
 もし俺が出なかったら、どうするつもりだったんだよ。
 聞けなかった。
 ウリ専で働いてるんだって。悪意すらなさそうに俺に噂を流してきた昔の同級生の顔が浮かんだ。
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