コンビニ行ってくるけど

美里

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 「行くとこないのか?」
 俺が問うと、凌は微妙な顔をした。多分、行くとこはあったのだろう。あったというか、どうにでもなった。凌が、俺の部屋に暮らすようになってはじめて身体を売りだしたとは思えない。地元にいた頃は分からないけれど、とにかく東京では、凌には一夜の宿くらい、どうにでもなることだったのだろう。
 俺は凌のその顔を見て、自分が発した言葉を後悔し、言い直した。
 「行くとこないんだろ。」
 きつい、断定の響き。それでも凌は、頷きはしなかった。ぎこちなく、こちらの表情を窺うみたいな目で、俺を見上げていた。
 頷いてくれればいいのに。嘘でもいいから。
 そんなことも言えず、そんなことを考えていると自分で認めることすらできず、俺はとにかく凌の腕を掴んだ。凌の身体に触れるのは、それがはじめてだった。おんなのやわらかくて骨が細い、頼りない感触とは違う、男の腕だった。着ているパーカーが薄いせいで、じわりと体温が滲む。体温が感じられるほど誰かに近づくのは、随分と久しぶりだと思った。それは、最後がいつ、誰だったのか思い出せないくらい。
 俺に腕を掴まれた凌は、怯えるみたいな、泣き出す寸前の子どもみたいな、追い詰められた表情を見せた。さっきまでへらへら笑っていたのに、電話で感じた硬い雰囲気が、再び凌の全身を包んでいた。
 こっちが、本当。
 俺はそう思って、そう思うとなぜだかほっとして、凌の腕を離さずにいられた。
 「俺んち、食いもんないから。腹減ってんならコンビニ寄るか。」
 俺が言うと、凌は足下に視線を落し、減ってない、と言った。
 「そっか。」
 そのまま俺は、凌の腕を引っ張るみたいにして駅構内に戻り、電車に乗り込んだ。金曜日の夜。終電近い電車内は込み合っていて、凌と会話をするようなスペースも空いていなかった。俺は隣で吊革につかまっている凌を横目で見ていた。凌は、こちらを見もせずに、車窓を眺めていた。外が暗いので、景色など見えず、反射した車内の様子が見えるだけだったけれど、凌はじっとそれを見つめていた。
 家の最寄りについたので、腹が減ってないと言っても、明日の朝飯もないし、駅前のコンビニに寄るか、と考えながら凌に、降りるぞ、と言うと、凌はまた、追い詰められたみたいな、泣きそうな子供みたいな、そんな色を浮かべた。俺はそれに気が付いていないふりをして、凌の腕を引いて、空いてきた電車から降り、駅のホームを歩きだした。
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