コンビニ行ってくるけど

美里

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 駅から俺が住んでいるアパートまでは、歩いて五分ちょっとかかる。駅前のコンビニで、夜食用のカップ麺と朝飯のパンでも買おうと思っていたのは確かなのに、俺は煌々と明かりをつけたコンビニの前を素通りした。きつく、凌の腕を掴んだまま。
 凌の腕を掴んだまま買い物をすることもできるだろうけど、ちょっと不審に思われる。
 そんなふうに思ったのだから。俺は凌の腕をどうしても離したくなかったのだろう。凌が逃げ出すと思ったのではなくて、もっと単純に、本当に単純に、離したくなかったのだ。やっぱり俺はそのときもうすでに、凌を抱きたかったのかもしれない。高校時代、ふたりで校舎裏で時間をつぶした。そのときには感じなかった胸の疼きがあった。
 「……腕、痛い。」
 半分俺に引きずられるみたいに歩きながら、凌がぽつりと言った。俺は、聞こえないふりをした。こんなふうに誰かを拘束したのははじめてだった。これまでそんなことをしたいと思ったことがなかったから。
 「……中田、」
 俺に無視をされた凌が、なにを言おうとしたのかは分からない。やつは、諦めたみたいにそこで口をつぐんだ。俺はやっぱり、口にされた自分の名前も黙殺した。
 五分ちょっと、肌を刺す冷たい空気の中、無言で歩きとおした。自分の部屋は駅近だと思っていたので、駅からの道のりを遠いと思ったのははじめてだった。
 アパートにつき、二階まで階段を上り、右手で凌の腕を掴んだまま、左手で不自由にスウェットのポケットから鍵を引っ張り出し、玄関のドアを開けた。そんな不恰好な俺を見ても、凌はもうなにも言わなかったし、引っ張り込まれるままに玄関にもつれ込んだ。
 「靴、」
 凌が掠れた声で言った。狭い玄関から勢いのまま、土足で一歩室内に踏み込んでいた。俺は凌の身体越しに手を伸ばし、玄関のドアを閉める。片手で、普段は存在を忘れているドアチェーンまでかけた。そうすると、少しだけ安心した。凌が逃げようとする素振りを見せても、なんとか取り押さえられると思ったのかもしれないし、外の誰かに今の俺を見られたくないと思ったのかもしれない。都合、俺の首のあたりに顔を伏せることになった凌は、抵抗らしい抵抗は見せなかった。一瞬、腕を突っ張ろうとした気もするけれど、とにかく凌は、狭い空間でぎこちなく身体を曲げた俺にキスをされても、逃げたり暴れたりはしなかった。
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