コンビニ行ってくるけど

美里

文字の大きさ
11 / 31

11

しおりを挟む
 抱きしめた凌の身体は冷たかった。この寒い夜に、どれだけの時間外に出ていたんだろう。俺に電話を掛けるまでに、躊躇いはあったのだろうか。他の誰かに電話をしたりしたのだろうか。その、他の誰かに裏切られたから、俺に電話をしたのだろうか。大したつながりもない、俺に。
 そう考えると、ぎゅっと心臓のあたりが痛んだ。寒い夜に新宿駅の人ごみにたたずみ、信じていた誰かに裏切られて呆然とする凌。そんなものを想像して、憐れんだせいじゃない。俺はもっと自分勝手で、俺以外の誰かに凌は電話をしたのだろうと、きっと俺が最初のひとりではないと、そのことに深く胸を痛めたのだ。当たり前なのに。もう10年近く、顔を合わせるどころか声を聞いたことすらなかった相手なのに。
 「凌、」
 俺、何番目だったの?
 さすがに情けなくて聞けなかった。俺に名前を呼ばれた凌は、ゆっくりと顔を上げて、至近距離で俺を見た。水みたいに凪いだ目をしていた。
 「……中田だけだよ。」
 俺の思考をすっかり読み取ったみたいな、その凌の発言。俺は驚いて、びくりと反応していた。そんな俺を見て、凌は少しだけ笑った。その顔を見て、俺は凌を信じる気になったどころか、俺は全然最初の方の番号でもなかったのだろうと、そう思った。そう思うと、急に身体を焦りが支配した。どうしようもなく、鳩尾のあたりが痛むほどの、焦燥感。俺はその嫌な感覚をどうにか鎮めたくて、凌をさらにきつく抱いた。それ以外の方法を思いつけなかった。これまでずっと、自分を亡霊みたいにして、ひとと関わらずにやってきた、そのつけがこの無力さなのだと思った。言葉も、動作も、なにもこの感情を凌に伝える術が思い浮かばない。それどころか俺は、自分の情動に適切な名前をつけることさえできていない。
 そんなふうに焦れて、いっそ凌の首筋に噛みつきたいほど、ごちゃごちゃになった感情をこじらせる俺を見て、凌は困ったように眉を寄せ、それから確かにこういった。
 「ベッド行こうか。」
 あまりにあっさり発せられたその発言を聞いて、俺は、目の前に立つこの男が、男相手の行為にひどく慣れていることを悟った。だったら、拒めばいい。拒まなくては、俺も数いる男の内のひとりにしかならない。
 分かっていて、焦燥が暴れた。俺は凌の腕を掴んだまま、靴も脱がずにフローリングの床を歩き、一番奥の壁に押しつけておいてあるベッドに凌を突き飛ばした。凌は俺に引きずられながらどこかで靴を脱いだらしい。白い靴下を履いていた。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

処理中です...