コンビニ行ってくるけど

美里

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 凌はやっぱり、ひどく慣れていた。俺は男と寝たことは一度もなかったし、男と寝るということをこれまで考えたことすらなかったのだが、その俺が、するりと凌を抱けた。それが凌の技量なのだと思う。行為中に凌がなにか俺に指示を出したとか、動作で伝えたとか、そんなことはまるでなかったのに。
 行為の最中、凌は一瞬だけ泣いた。泣いたというか、一筋の涙を右目から流した。俺はその涙を咄嗟に指先で拭った。凌の表情は、別に泣き顔でもなかった。普通の顔で、ただ涙だけが零れている。それでも俺は、高1の春のはじめ、凌が校舎裏で泣いたあの午後のことを思い出した。あの午後からずいぶん遠くに来てしまったと、そんなことを思ったのだ。
 あのまま、いられればよかった。けれどなにもかもが変わってしまったような気がした。俺はもう金髪ではないし、煙草も吸わない。なにもかもをあっさり諦める陰気な人間になった。凌のことはよく知らないけれど、あの頃の凌には、寒い冬の夜に男の部屋につれこまれたり、その男とあっさり寝るような、そんな雰囲気はなかった。
 「……変わったな。」
 言葉はほとんど無意識に、唇から転がり出ていた。
 「俺が?」
 俺の下でわずかに呼吸を乱しながら、凌が小さく首を傾げた。
 「……いや、俺。」
 凌のことは、変わったとか変わっていないとか言えるほど、知ってすらいないのだ。今、凌が流した涙だって、なにか感情的な意味があるのか、それとも体内に男を収めた拍子に出てきた反射的なものなのか、それすら分からない。
 「中田は変わってないよ。」
 凌はするりとそう言った。考える余地もない事実みたいに。これ以上はっきりしていることはこの世にないみたいに。
 「……そっか。」
 凌だって、俺のこと知らないだろ。
 思ったけれど、言わなかった。言えなかった。そうだね、と答えた凌が、我に返ってこの部屋を出ていくのではないかと思った。この凌の身体には、どこででもどうやってでも生きていける、資格みたいなものがあるように思えて、ただの気まぐれで俺に電話をしてきたのだとしても、俺はその身体を手放したくなかったのだ。
 凌は、自分が泣いたことに気が付いてさえいなかったと思う。行為が終わると、ベッドの上に身を起こし、靴下だけをはいた裸に衣類を身に着けていきながら、頬に残った微かな涙の痕を気にするそぶりさえ見せず、ごめんね、と言った。なにを謝られているのか分からない俺は、その謝罪が聞こえないふりをした。なにか答えたとして、ひととの付き合いが下手で、口も下手な俺は、余計なことを言ってしまって、凌がさらりとまた俺の前から消える。その展開だけは避けたかった。
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