コンビニ行ってくるけど

美里

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 その晩は、交代でシャワーを浴びて、そのまま寝た。凌の後でシャワーに入った俺が風呂場から出てくると、当の凌はもうベッドの中でうとうとしていたから、そのまま電気を消して、狭いベッドの凌の隣に無理やりみたいに潜り込んで、目を閉じた。
 多分、眠れない。 
 そう思ったのだけれど、案外すぐ眠れた。隣で安らかに寝息を立てる男の体温のせいだったかもしれない。男とはセックスをしたことがないし、おんなとはセックス以外をしたことがなく、友人と言っていい人間もいない俺にとっては、こんなに近くに他人の体温があるというのは、思い出せる限りはじめてのことだった。その違和感は若干あったのだけれど、凌がすやすやと、まるっきり子供みたいな寝息を立てるので、すぐに気にならなくなった。
 その眠りの中で、夢を見た。はっきり内容を覚えているわけじゃないけれど、悲しい夢だった。誰かの背中が遠ざかって行くのを、俺は引き留められない。そういう夢だった。
 目を覚ますと、俺はすぐに隣の凌の存在を確認した。夢が現実に侵入してくるのを恐れるみたいに。凌は相変わらず、幼児か天使くらいにしか許されないような穏やかさで眠っていた。
 俺はもそもそとベッドから起き出し、台所のケトルで湯を沸かし、インスタントコーヒーをふたり分淹れた。マグカップは一人分しかないので、俺の分はグラスに入れる。凌に声をかけて起こそうと思ったのだけれど、その白い頬のあまりの静かさにそれができず、ベランダに出て、ひとりでコーヒーを飲んだ。
 こうやって、なにをするでもなくベランダに出るのは、煙草を吸わなくなって以来のことだ。いつだったかもう覚えてもいないけれど、何年も前のこと。
 コーヒーを飲み終わるまでに、何台かの車がアパートの前の道を通り過ぎ、それより多くの自転車が、さらに多くの歩行者が通り過ぎた。朝の空気は肺に突き刺さりそうなほど冷たい。
 グラスが空になり、俺は室内に戻ろうとして、躊躇った。もう凌は、中にいないのではないかと思った。アパートの前の道をずっと見下ろしていたのだからそんなはずはないのだけれど、凌はもう、この部屋を出て行ったのではないかと。
 しばらく、その想像が頭を離れなくて、その場に突っ立っていた。そう長くはない、数分間のことだったと思う。それでも俺の手は冷え切り、薄手のスウェットを着たきりの脚が震えた。
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