コンビニ行ってくるけど

美里

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 仕事中も、なんだかそわそわして作業が手につかなかった。いつもは、なにも考えずに無心に働くのは嫌いではなくて、そうしている間は自分の存在さえ消えてしまっているみたいで楽だったのに、今日はそれができない。ずっと、いてほしくもない俺がいた。業務以外で口をきくこともない、隣のデスクの女性社員から、今日なんか雰囲気違いますね、と言われすらしたのだから、俺はやっぱり、様子がおかしかったのだろう。ワイシャツの胸ポケットに入れた、大した重量なんてない煙草の箱が、妙に重く感じた。
 夕方。残業しようと思えばできた。俺は少し迷って、タイムカードを切った。迷った理由は明らかに、いるかいないかも分からない凌で、俺はそれを認めたくはなかった。だって、本当に、いるかいないかも分からないのだ。帰って、いつも通り誰もいないひとりの部屋があるだけだったら、間抜けすぎる。だからと言って、自分が凌の存在を期待しているとも思いたくなかった。ひとりには慣れていたし、慣れていたくもあった。昨日凌が言った、温かいのに慣れると、戻れなくなる、との言葉が、ずっと額の内側にあった。しっとりと、冷たく。だからだろう、定時で職場を後にしても、帰宅する俺の足取りはのろのろと遅かった。
 家にはいつもどおりなにもないから、コンビニでなんか買って帰らないと。
 ぼんやりそう思うのだけれど、なにか買うとして、それはふたり分なのかひとり分なのか。もしも凌の分の飯を買って帰って、部屋に誰もいなかったら、俺はどうしたらいい。
 そんなことを考えているうちに職場の最寄り駅につき、ほとんど無意識に電車に乗り込み、自宅の最寄りで降りる。徒歩五分。五分で凌がいるのかいないのか分からないアパートにつく。
 俺は足を引きずるみたいにコンビニを素通りした。やっぱり、なにをどう考えても、ひとり分の飯を買うか、ふたり分の飯を買うか、答えが出なかったのだ。
 重い足取りで、でも、引き伸ばそうとしたところで、住宅街にどこか寄るところがあるわけでもない。俺は真っ直ぐアパートへ帰った。玄関の鍵を開け、一瞬だけ目を閉じ、そんな自分が嫌になりながら、扉を開く。
 部屋の中は、外とそう変わらないくらい寒かった。ああ、俺は今日もひとりか、と、ぼんやり思いながら靴を脱ごうと下を向くと、沓脱に凌の白いスニーカーが転がっていた。
 
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