コンビニ行ってくるけど

美里

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 凌がはじめて夜中に出かけて行ったのは、俺の部屋に転がり込んできてから二週間が経った金曜日だった。俺はその夜、母親からの電話をはじめて無視した。隣には凌がいて、スマホはテーブルの上で震えた。俺は別に興味があるわけでもないニュース番組を眺めながら、スマホの振動については気が付いていないみたいなふりをした。バイブ音も振動も、無視できるレベルではなく狭い部屋に響いていたのに。
 「出ないの?」
 凌がスマホを俺を見比べながら、不思議そうに首を傾げた。
 「……ん。」
 俺は曖昧な言葉を吐きながら、テレビを消し、そろそろ寝るか、と、スマホを放ったまま、歯を磨きに洗面所へ向かった。俺に電話をかけてくるのは母親だけだから、確かめなくても相手は分かった。それでも電話に出る気にはなれなかった。煙草を吸うふりでもしてベランダに出れば、凌はついてきたり覗いたりしない。分かってはいたけれど、指先にはさっきまで触れていた凌の体内の温度がまだうっすら残っていた。
 「ストーカーか闇金の取り立て?」
 数秒遅れて洗面所に入ってきた凌は、歯ブラシを口に突っ込むことで、無言でいることの正当性を手に入れた俺に、冗談交じりにそんなことを言ってきた。
 「……そんなとこ。」
 「そっか。」
 そのときが、深夜の12時くらい。凌は歯を磨き、俺とベッドに入り、けれど眠らずに、しばらく液晶を暗くしたスマホを弄っていた。俺は寝ているふりをしていた。なんで自分がそんなことをしているのかも分からないまま。
 微かに灯っていた液晶の灯りが消えた、と思ったのは多分、深夜1時くらい。凌が暗闇の中で起き上がる気配がした。俺はやっぱり、寝たふりをしていた。起き上がった凌は、そのままスマホだけ持って、静かに部屋を出て行った。
 「……凌、」
 アパートのドアが閉まってから、ようやくそれだけ声が出せた。今更全然遅かった。いっそもう永遠に、声なんて出せない方がよかった。
 凌は、どこに行ったのだろう。なにも持たず、コートも着ず、こんな夜中に。
 もう、帰ってこないのかもしれない。
 そう思って、俺はどうしていいのか分からなくなった。頭の中がふわふわして、ひとつの言葉も生みだせない感じ。自分がなにを考え、どうしたいのかすら、俺には全く分からなかった。だから、じっと身体を固くして、朝を待った。朝になったら状況が良くなるとか、考えがまとまるとか、せめてなにか変化があるとか、そんなふうに思ったわけでもない。ただ、朝を待つ以外にできることがなかったのだ。
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