コンビニ行ってくるけど

美里

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 一度電話を無視したら、母親は前より頻繁に電話をかけてくるようになった。俺は一度ラインで、元気にやってるから、と送っただけで、電話を無視し続けた。理由は曖昧だけれど、多分、上手くできる気がしなかったからだ。上手く、これまでみたいにできる気がしない。俺の中のどこかが、少しずつ不安の芽をだして成長していっているのを、上手く隠せる気がしない。毎日数回鳴る電話を、狭い部屋で同居している凌に隠しておけるはずもないので、仕事が終わったらスマホの電源を切るようになった。どうせ、母親以外に俺に電話をかけてくる人間はいない。そうしてみると、ずっと気持ちが楽になった。肩の荷が下りた感じだった。ずっと肩の上が重かったのに気が付かないで荷物を背負っていて、それを下してようやく、ああ、重たかったのだな、と気が付いた感じだった。
 凌は、一週間に一度くらい、ふらりと夜中に出かけて行く以外、基本的には部屋にいた。時々、コンビニ行ってくるけど、なにかいる? と俺に訊いてきて、別に、と返すとひとりで部屋を出ることはあったけれど、そのときは本当にコンビニに行くだけで、15分もすると、俺の煙草とちょっとした食い物を買って帰ってきた。俺は、黙って凌が出ていく真夜中を、段々無視できるようになった。どうせ、なにも訊けない。俺にその資格はない。だったら黙っているほかない。そう胸の中で呟くと、それが正解だ、なにも間違っていない、という気になって、迷いや不安が薄くなった。薄くなるだけで、消えはしないそれが、帰ってきた凌を抱くという行為に結び付きはしたけれど、凌はなにも言わなかったし、俺もなにも訊かなかった。
 そうやって、二か月くらいを過ごした後、繁忙期で数時間残業をしてから仕事から帰ってきた俺に、凌が言った。
 「お母さん来たよ。」
 いつもの凌の、あっけらかんとした物言いだった。なんの引っかかりもない、健やかささえ感じさせる喋りかただった。
 「……いつ?」
 荷物を床に置きながら問い返した俺が、それほど動揺していなかったのは、いつかこうなるのは分かっていたからだ。母親の行動パターンから考えれば、息子と連絡が取れなくなれば、心配して上京し、引っ越したときに伝えた住所までやってくる。そこまでは、分かっていた。分かった上で、なにも対策をしていなかった。思考停止していたのだ。母親がこの部屋までやってこないように、うまい具合に連絡を途絶えさせずに凌と暮らす。それが、俺にはできなかった。
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