コンビニ行ってくるけど

美里

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 「さっき。三十分くらい前かな。中田くんは仕事でいませんって言ったら、後でまた来るって。」
 凌は俺の目を見ながら、すらすらとそう言った。
 「……そっか。」
 「電話、出てないんだってな。よくないぞ。」
 「……うん。」
 よくない。それは分かっている。でも、電話に出続けていたら、もっとよくないことになりそうな気がしていたのだ。それをうまく言葉にできなくて、今もなにも言えないし、母親にもなにも言えなかった。
 「俺がいるって、言ってなかったんだな。お母さん、びっくりしてた。」
 「なんて言えばいいんだよ。」
 「友達泊めてるって。」
 「お前、俺の友達だったのか?」
 「違った?」
 そう言って、凌はけらけら笑った。翳りのない顔をしていた。俺は、高校時代、校舎裏に顔を出しては、毒にも薬にもならない話をしていった凌のことを思い出した。
 「とにかく、あんまりお母さん心配させんなよ。俺、出てるから、お母さんに連絡しな。」
 笑いを引っ込めた凌は、真面目な顔で言い、そのまま立ち上がると玄関の方に向かって歩いて行った。俺はほとんど反射で、その腕を引いていた。
 「なに?」
 振り返った凌が、芯から不思議そうに首を傾げる。俺はその顔を見て、胸の中にわだかまっていた言葉を飲み込んだ。お前の母親は? なんて、口に出すべきではない。凌の友達でさえない俺は。
 「いろよ。」
 「え?」
 「いろ。」
 それ以上の言葉が出てこなかった。思いつかなかったし、思いついたとしても口から出てはこなかったと思う。
 「友達ですって? 寝てんのに?」
 凌は、口元だけを笑わせて、軽い調子でその言葉を発した。そして俺は、その軽い調子にあっさり口をふさがれた。
 じゃ、とこれまた軽く手を振って、凌はそのまま外へ出て行った。今夜も一段と冷え込むのに。俺は凌を引き留めることができず、しばらくその場に突っ立っていた。さっきの凌の、口元だけ笑った顔。あんな顔の凌を、これまで見たことはなかった。あんな、この世の全てを突き放すみたいな。
 どれくらいその場で固まっていたのか。動けないというよりは、動きたくなかったのだけれど、玄関のチャイムが鳴った。凌が気を変えて戻ってきたとは思えないから、母親だろう。俺は、のろのろと玄関へ行くと、妙に重たく感じられるドアを開けた。
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