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玄関のドアを開けると、思ったとおり、母親が立っていた。分厚いコートを着て、マフラーをぐるぐる巻きにしている。
「健人、あんた、電話でないから……。」
母親は、怒っていると言うよりは、悲しそうな、いっそ泣き出しそうな、今まで見たことのない顔をしていた。
心配させていたのだ。それくらいのこと、これまでだって分かっていた。それでも俺は電話に出なかった。
「……ごめん。」
謝るしかなかった。申し訳ないと思ったのは本当だ。でも、その感情以上に、それ以上の言葉が思いつかなかった。ごめん。そう謝って、そこから先の言葉が出ない。黙り込む俺を見て、母親は笑った。いつも俺の言葉足らずは、この微笑で許されてきていた。そういう笑みだった。
「なにかあったのかと思って、来たのよ。……彼女かと思ったら、男の子でびっくりした。お友達泊めているの?」
何気ない口調で母親が言う。俺は、母親を家に招き入れるべきだと思っている。今夜は寒い。玄関先にいては、風邪をひくかもしれない。それなのに、彼女を中に入れることができない。
「……うん。」
寝てんのに?
そう。ごく軽い調子で言った凌の、冷えた微笑がよみがえる。そう、寝てるのに。友達ですらないのに、寝たのがそもそもの間違いだったのだろう。セックスフレンドの、フレンド部分すらないくせに、俺が凌を欲しがった。
「電話くらい、出なさいよ。帰ってこいって、無理に言うつもりはないんだから。」
「……うん。」
「明日は仕事、休み?」
「……うん。」
「ちょっと付き合ってよ。ご飯くらい。」
俺は、黙った。言葉が上手く出てこない。自分がなにを言いたいのか分からない。それなのに、喉の奥では言葉にならない感情が吹き荒れているのだ。
黙り込んだ俺を見て、母親は笑った。
「……忙しいのね。」
「……うん。」
嘘をついた。俺を間違いなく愛してくれたひとだ。金を巻き上げられたことは一度もないし、大学までちゃんと出してくれた。留年したときだって、文句を言われもしなかった。金髪で煙草ばかり吸うしょうもないガキだった俺を、それでも見守ってくれたのだ。それなのに、なぜだろう。昔からだ。階段を上ってくるあなたの足音が、どうしても好きになれなかった。
「急に来て、ごめんね。お友達によろしくね。」
母親はそう言うと、じゃあね、と微笑んだ。今にも崩れそうな表情は、それでも笑みに固定されていた。俺はただ、頷くしかなかった。ひとつも台詞が見つからない。だれかに教えてほしかった。上手い立ち振る舞いや、上手い言葉の作りかた、上手いひとの愛しかたを。
「健人、あんた、電話でないから……。」
母親は、怒っていると言うよりは、悲しそうな、いっそ泣き出しそうな、今まで見たことのない顔をしていた。
心配させていたのだ。それくらいのこと、これまでだって分かっていた。それでも俺は電話に出なかった。
「……ごめん。」
謝るしかなかった。申し訳ないと思ったのは本当だ。でも、その感情以上に、それ以上の言葉が思いつかなかった。ごめん。そう謝って、そこから先の言葉が出ない。黙り込む俺を見て、母親は笑った。いつも俺の言葉足らずは、この微笑で許されてきていた。そういう笑みだった。
「なにかあったのかと思って、来たのよ。……彼女かと思ったら、男の子でびっくりした。お友達泊めているの?」
何気ない口調で母親が言う。俺は、母親を家に招き入れるべきだと思っている。今夜は寒い。玄関先にいては、風邪をひくかもしれない。それなのに、彼女を中に入れることができない。
「……うん。」
寝てんのに?
そう。ごく軽い調子で言った凌の、冷えた微笑がよみがえる。そう、寝てるのに。友達ですらないのに、寝たのがそもそもの間違いだったのだろう。セックスフレンドの、フレンド部分すらないくせに、俺が凌を欲しがった。
「電話くらい、出なさいよ。帰ってこいって、無理に言うつもりはないんだから。」
「……うん。」
「明日は仕事、休み?」
「……うん。」
「ちょっと付き合ってよ。ご飯くらい。」
俺は、黙った。言葉が上手く出てこない。自分がなにを言いたいのか分からない。それなのに、喉の奥では言葉にならない感情が吹き荒れているのだ。
黙り込んだ俺を見て、母親は笑った。
「……忙しいのね。」
「……うん。」
嘘をついた。俺を間違いなく愛してくれたひとだ。金を巻き上げられたことは一度もないし、大学までちゃんと出してくれた。留年したときだって、文句を言われもしなかった。金髪で煙草ばかり吸うしょうもないガキだった俺を、それでも見守ってくれたのだ。それなのに、なぜだろう。昔からだ。階段を上ってくるあなたの足音が、どうしても好きになれなかった。
「急に来て、ごめんね。お友達によろしくね。」
母親はそう言うと、じゃあね、と微笑んだ。今にも崩れそうな表情は、それでも笑みに固定されていた。俺はただ、頷くしかなかった。ひとつも台詞が見つからない。だれかに教えてほしかった。上手い立ち振る舞いや、上手い言葉の作りかた、上手いひとの愛しかたを。
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