コンビニ行ってくるけど

美里

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 母親が出て行ってからも、俺はその場から動く気力もわかないで、玄関にじっとしゃがみ込んでいた。じりじりと、足元から冷気が立ち上ってくる。せめて煙草が吸いたいと思ったけれど、煙草は箱ごとリビングのテーブルに置いてある。ライターの炎でもあれば、指先だけでも温まるのではないかと思うのに。
 自分がひとを傷つけたと、その実感がつま先から冷気と一緒に這い上ってくる。それも、俺を愛し、育ててくれたひとを。恩のある相手だ。分かっている。ずっと分かっていた。分かっている分、どうにもこうにも動けなかった。
 つま先から始まって、膝、腰、肩、と順々に冷え切っていって、頭のてっぺんまで凍えた頃、玄関のチャイムが鳴った。凌だ。心のどこかで、もう凌は帰ってこないような気がしていたのだけど、そんなことはなかったらしい。少なくとも今夜は、凌が帰ってきた。俺は、しゃがみ込んだまま、腕だけ伸ばして内側から玄関のドアを叩いた。数秒の沈黙の後、ドアは外から開いた。
 「わ、なにやってんの?」
 冷え切った石張りの玄関に座り込んだ俺を見て、凌は素直に驚いた声を上げた。
 「なに、お母さんとけんかしたの?」
 そんなことは、ない。いっそそうできればよかった。今ではなくて、もっともっと前、そう、俺が金髪の煙草ばかり吸うガキだった頃に。それなのに、母親は受け入れすぎたし、俺には言葉がなかった。
 辛うじて首を横に振ると、凌が後ろ手でドアを閉め、俺の隣に膝をついた。
 「お母さん、心配してたよ。」
 静かな声だった。俺を責める響きはなく、ただ事実を述べているだけの声だった。
 「外で、俺のこと待ってた。中田のこと、聞かれたよ。よく知らないって言っといた。ほんとに知らないし。……よろしくお願いしますって、言われた。」
 背中に、俺のより一回りだけ小さい凌の手が乗った。ごく短い、ため息が聞こえる。俺は、どうしたらいいのか分からなくて、じっと膝を抱いた。凌もそれ以上はなにも言わなくて、その場にただ膝をついていた。凌の手は、驚くほど冷たくて、こいつはこの寒い中、多分ずっと外にいたのだろうと思われた。俺はなぜだか無性に悲しくなって、その場で泣いた。情けなく、身体を震わせながら、凌のてのひらの下で泣いた。凌はやっぱりなにも言わず、俺の背中を撫でることもなく、ただ肩甲骨の間に手のひらを置いて、じっとその場に膝をついていた。
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