29 / 31
29
しおりを挟む
朝飯を食ったら、することがなくなるな、と思った。コーヒーを啜り、卵サンドをかじりながら。隣では、もう食事を終えた凌が、ゆっくりとコーヒーを飲み干している。
口を利かなくては、と思った。なにか言わなくては。とにかく、なにか。
それなのに一つも言葉が思い浮かばなくて、黙ったままの俺を見て、凌は少しだけ笑った。俺の内面なんて、なにもかもお見通しみたいな微笑だった。
コーヒーカップを置いた凌が、俺の手から卵サンドをとりあげ、テーブルに置く。俺は、それを目で追った後、凌に視線を戻した。そのときにはもう、欲情していた。なんで、こんなに簡単に、と思うくらいに。
俺も凌も、なにも言わなかった。ただ、ローテーブルの横で一度、ベッドで何回か、セックスをした。それだけで土曜日が終わる、怠惰なセックス。
これが楽だ、と思った。言葉を探さなくていい。黙っている理由が与えられる。なにひとつ感情を伝え合うわけでもない行為だけど、それでも。
俺はこうやっていつも、凌に助け舟を出されているのかもしれない、とふと思いつき、それからすぐに、その助け舟がなければ、と考える。その助け舟がなければ、俺は本気で言葉を探し、なにか言えたかもしれない。なにか、確信に触れる言葉を。でも、そんなのはただの責任転嫁で、凌がなにをしようがしまいが、俺にはなにも言えやしないと、ちゃんと分かっている。
昼飯は、食い残した朝飯を適当に食い、晩飯は、さすがに服を着て、俺がコンビニに買いに行った。
15分で帰ってきて、部屋に入ると、凌はいつものパーカー姿でベッドの下に座り込んでいた。俺が仕事から帰ってくるときと同じ姿だった。俺は、なんとなく胸をふさがれるような気分になって、とにかく凌の腕を引っ張ってその場から立ち上がらせた。凌は不思議そうな顔もせず素直に立ち上がり、コンビニ袋の中をあさりながらローテーブルの前に腰を下した。
これを食ったら、後は寝るだけ。
凌が転がり込んできて以来の、いつもの土曜の夜だった。俺はそのことに安堵していて、凌はなにを考えているのか分からないいつもの顔で、弁当をふたつ、電子レンジで温めに行く。
「はい。」
凌に手渡されたコンビニ弁当を割り箸でかき込みながら、俺は、明日もきっと、今日と同じように過ぎていくのだろう、とぼんやり考えている。いつまで続くのかなんて全然分からないけれど、とにかく、明日は。
口を利かなくては、と思った。なにか言わなくては。とにかく、なにか。
それなのに一つも言葉が思い浮かばなくて、黙ったままの俺を見て、凌は少しだけ笑った。俺の内面なんて、なにもかもお見通しみたいな微笑だった。
コーヒーカップを置いた凌が、俺の手から卵サンドをとりあげ、テーブルに置く。俺は、それを目で追った後、凌に視線を戻した。そのときにはもう、欲情していた。なんで、こんなに簡単に、と思うくらいに。
俺も凌も、なにも言わなかった。ただ、ローテーブルの横で一度、ベッドで何回か、セックスをした。それだけで土曜日が終わる、怠惰なセックス。
これが楽だ、と思った。言葉を探さなくていい。黙っている理由が与えられる。なにひとつ感情を伝え合うわけでもない行為だけど、それでも。
俺はこうやっていつも、凌に助け舟を出されているのかもしれない、とふと思いつき、それからすぐに、その助け舟がなければ、と考える。その助け舟がなければ、俺は本気で言葉を探し、なにか言えたかもしれない。なにか、確信に触れる言葉を。でも、そんなのはただの責任転嫁で、凌がなにをしようがしまいが、俺にはなにも言えやしないと、ちゃんと分かっている。
昼飯は、食い残した朝飯を適当に食い、晩飯は、さすがに服を着て、俺がコンビニに買いに行った。
15分で帰ってきて、部屋に入ると、凌はいつものパーカー姿でベッドの下に座り込んでいた。俺が仕事から帰ってくるときと同じ姿だった。俺は、なんとなく胸をふさがれるような気分になって、とにかく凌の腕を引っ張ってその場から立ち上がらせた。凌は不思議そうな顔もせず素直に立ち上がり、コンビニ袋の中をあさりながらローテーブルの前に腰を下した。
これを食ったら、後は寝るだけ。
凌が転がり込んできて以来の、いつもの土曜の夜だった。俺はそのことに安堵していて、凌はなにを考えているのか分からないいつもの顔で、弁当をふたつ、電子レンジで温めに行く。
「はい。」
凌に手渡されたコンビニ弁当を割り箸でかき込みながら、俺は、明日もきっと、今日と同じように過ぎていくのだろう、とぼんやり考えている。いつまで続くのかなんて全然分からないけれど、とにかく、明日は。
6
あなたにおすすめの小説
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる