三人暮らし

美里

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 ああ、世界がぐるりと反転してしまった。
 私が絶望感とともにそう確信したのは、駅前の商店街を抜ける少し手前のこと。スーパーマーケットの自動ドアから出てくる、悠ちゃんとお母さんを見た瞬間だった。
 別に二人の様子がいつもと違ったわけではない。二人は普通に自動ドアを出て、家の方向に並んで歩いて行った。悠ちゃんは手に、大して膨らんでもいないスーパーのレジ袋を提げているから、多分、夕飯を作っているうちに、なにか買い忘れたものに気が付きでもして、買い足しにきたのだろう。
 だったら、どっちかひとりがくればいいのに。
 私は、ひっくり返ってしまった世界を呆然と見つめながら、そう思った。わざわざこんなふうに、ふたりで肩を並べて歩いたりしないで、どちらかが料理を続けて、もう片方が買い出しに出ればいいのに。そうしたら私の世界は反転なんかせず、私もなにも考えずに、悠ちゃんかお母さんかに声をかけて、当たり前に一緒に家に帰ることができたのに。
 反転した世界の中には、悠ちゃんしかいなかった。ぽつりとひとり、悠ちゃんと、わだかまる私の汚い感情だけがあった。お母さんにすら嫉妬するような、私の汚い感情が。つまり私は……。
 その場に突っ立ったまま、私はその先の言葉を必死で自分の中でかき消そうとしていた。でも、やっぱり自分の中に湧き起ってしまった言葉を、完全にかき消すことなんかできようもなくて。
 ああ、どうしよもない。反転してしまった世界を、もう一度元に戻すことなんか、できようもない。
 「明日美?」
 「なにやってるのよ?」
 立ち尽くす私の耳に、聞き慣れた二人の声が飛び込んでくる。聞き慣れているはずなのに、今日はまるで別人のものにすら聞こえる声が。
 私が道の端っこに棒立ちになっていることに気が付いた悠ちゃんとお母さんが、怪訝そうな顔でこちらに歩み寄ってくる。ふたりの肩がいつもより近いとか、そんな微かな変化さえない、いつも通りの私の母と兄が。
 私は、怯えたみたいに強張る身体を辛うじて動かし、ふたりの方へ足を進めながら、意識的に唇の端を持ち上げて、笑みを形作った。
 「なんでもないよ。」
 
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