20 / 28
3
しおりを挟む
ああ、世界がぐるりと反転してしまった。
私が絶望感とともにそう確信したのは、駅前の商店街を抜ける少し手前のこと。スーパーマーケットの自動ドアから出てくる、悠ちゃんとお母さんを見た瞬間だった。
別に二人の様子がいつもと違ったわけではない。二人は普通に自動ドアを出て、家の方向に並んで歩いて行った。悠ちゃんは手に、大して膨らんでもいないスーパーのレジ袋を提げているから、多分、夕飯を作っているうちに、なにか買い忘れたものに気が付きでもして、買い足しにきたのだろう。
だったら、どっちかひとりがくればいいのに。
私は、ひっくり返ってしまった世界を呆然と見つめながら、そう思った。わざわざこんなふうに、ふたりで肩を並べて歩いたりしないで、どちらかが料理を続けて、もう片方が買い出しに出ればいいのに。そうしたら私の世界は反転なんかせず、私もなにも考えずに、悠ちゃんかお母さんかに声をかけて、当たり前に一緒に家に帰ることができたのに。
反転した世界の中には、悠ちゃんしかいなかった。ぽつりとひとり、悠ちゃんと、わだかまる私の汚い感情だけがあった。お母さんにすら嫉妬するような、私の汚い感情が。つまり私は……。
その場に突っ立ったまま、私はその先の言葉を必死で自分の中でかき消そうとしていた。でも、やっぱり自分の中に湧き起ってしまった言葉を、完全にかき消すことなんかできようもなくて。
ああ、どうしよもない。反転してしまった世界を、もう一度元に戻すことなんか、できようもない。
「明日美?」
「なにやってるのよ?」
立ち尽くす私の耳に、聞き慣れた二人の声が飛び込んでくる。聞き慣れているはずなのに、今日はまるで別人のものにすら聞こえる声が。
私が道の端っこに棒立ちになっていることに気が付いた悠ちゃんとお母さんが、怪訝そうな顔でこちらに歩み寄ってくる。ふたりの肩がいつもより近いとか、そんな微かな変化さえない、いつも通りの私の母と兄が。
私は、怯えたみたいに強張る身体を辛うじて動かし、ふたりの方へ足を進めながら、意識的に唇の端を持ち上げて、笑みを形作った。
「なんでもないよ。」
私が絶望感とともにそう確信したのは、駅前の商店街を抜ける少し手前のこと。スーパーマーケットの自動ドアから出てくる、悠ちゃんとお母さんを見た瞬間だった。
別に二人の様子がいつもと違ったわけではない。二人は普通に自動ドアを出て、家の方向に並んで歩いて行った。悠ちゃんは手に、大して膨らんでもいないスーパーのレジ袋を提げているから、多分、夕飯を作っているうちに、なにか買い忘れたものに気が付きでもして、買い足しにきたのだろう。
だったら、どっちかひとりがくればいいのに。
私は、ひっくり返ってしまった世界を呆然と見つめながら、そう思った。わざわざこんなふうに、ふたりで肩を並べて歩いたりしないで、どちらかが料理を続けて、もう片方が買い出しに出ればいいのに。そうしたら私の世界は反転なんかせず、私もなにも考えずに、悠ちゃんかお母さんかに声をかけて、当たり前に一緒に家に帰ることができたのに。
反転した世界の中には、悠ちゃんしかいなかった。ぽつりとひとり、悠ちゃんと、わだかまる私の汚い感情だけがあった。お母さんにすら嫉妬するような、私の汚い感情が。つまり私は……。
その場に突っ立ったまま、私はその先の言葉を必死で自分の中でかき消そうとしていた。でも、やっぱり自分の中に湧き起ってしまった言葉を、完全にかき消すことなんかできようもなくて。
ああ、どうしよもない。反転してしまった世界を、もう一度元に戻すことなんか、できようもない。
「明日美?」
「なにやってるのよ?」
立ち尽くす私の耳に、聞き慣れた二人の声が飛び込んでくる。聞き慣れているはずなのに、今日はまるで別人のものにすら聞こえる声が。
私が道の端っこに棒立ちになっていることに気が付いた悠ちゃんとお母さんが、怪訝そうな顔でこちらに歩み寄ってくる。ふたりの肩がいつもより近いとか、そんな微かな変化さえない、いつも通りの私の母と兄が。
私は、怯えたみたいに強張る身体を辛うじて動かし、ふたりの方へ足を進めながら、意識的に唇の端を持ち上げて、笑みを形作った。
「なんでもないよ。」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
放課後の保健室
一条凛子
恋愛
はじめまして。
数ある中から、この保健室を見つけてくださって、本当にありがとうございます。
わたくし、ここの主(あるじ)であり、夜間専門のカウンセラー、**一条 凛子(いちじょう りんこ)**と申します。
ここは、昼間の喧騒から逃れてきた、頑張り屋の大人たちのためだけの秘密の聖域(サンクチュアリ)。
あなたが、ようやく重たい鎧を脱いで、ありのままの姿で羽を休めることができる——夜だけ開く、特別な保健室です。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる